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12.5% 聖騎士追放 それでも彼は国のために戦った / Chapter 10: 製作、マイホーム

Kabanata 10: 製作、マイホーム

 黄金郷に眠る黄金たち。それ自体にトールは関心は薄い。

 もしかしたら、追放されたとはいえライヴァネン王国を救う一助になるかもしれないが、あくまで目的は魔法の杖の入手だ。

 これで国の半分を覆う呪いを祓うのだ。結局、追放されている身というのがネックではあるが、そちらについてはあてがあるのでさほど心配していない。

 まずはこの暗黒島に隠された伝説の黄金郷を目指す。そのためには、黄金郷を封じ、魔女ブランの力を分けられた十二の大魔獣を倒さないといけない。

 しかしその大魔獣の力は強大。大軍で戦っても勝てるか怪しい。そんな相手に、神の加護を失った元聖騎士が挑まねばならないのだ。

 ――倒すさ。何としてでも。

 トールの決意は揺るがない。それが困難な道だとしても。

「意気込むのはいいがな、トール」

 黄金郷の魔女を自称するブランは言うのだ。

「一日二日で全部の魔獣を倒せるわけではない。時には大怪我もするだろう。そんな時に助けになるのが拠点というものだ」

 ……つまり何が言いたいかと言うと。

「手伝え」

 ブランは言った。

 まずは、この廃墟の砦の中で寝床となる所をを作る。

 衣食住あってこその人。ただでさえ大魔獣とは身体能力で隔絶しているのだ。だから挑むのなら体力気力も充分、すなわち万全の状態でなければならない。明日の自分の力となるのであればこそ、拠点作りも手を抜けないのである。

 トールとブランは砦の居住区の一角を改造して住処にした。建物としては半壊していて、一見すると廃墟の中の部屋のようであった。

「不足している壁を作ろう」

 ブランは、部屋の基準を満たしていない室内を見回した。トールは皮肉る。

「その辺りに落ちている岩を拾ってこいとは言わないでくれよ」

「やれるのなら、やってくれてもいいんだぞ?」

「冗談。あんな重いもの持てないよ」

「魔法を使って浮かせなよ。簡単だろう?」

 挑発的にブランは言うのだった。

「それで、トールはストーンウォールの魔法は使えるか?」

 岩壁の魔法。敵の投射武器から身を守るために魔術師が使っているのを何度か見たことがある。

「正規の教育では受けていない。……やり方を教えてくれ」

「なに、そんな難しくはないよ」

 ブランは微笑んだ。元聖騎士であるトールは、魔法の基礎教育は受けている。派手かつ高度な魔法は魔術師の分野だから、そこまで教わっていないが、魔法の使い方の基礎ができている分、覚えは早かった。

「ストーンウォール!」

 トールは部屋の壁となる石壁を作る。

 それをブランが魔法で持ち上げると、適当な位置に移動させ穴埋めに使う。しかしそれだけでは隙間だらけで風が入ってくるだろう。

「そう心配そうな顔をするな。ここからが魔術師の神髄というものよ」

 石壁の隙間が、もとから一枚の壁だったように埋まっていく。粘土のように変化し、見えない手が成形しているように。それはやがて固まり、隙間のない頑強な壁となった。

「無詠唱でこれか……。さすが本職の魔術師だ」

「ふん、こんなものは児戯だよ。褒めるに値せんが、まあトールに褒められるのは悪い気はしないな」

 ブランはクスリと笑う。

「無詠唱魔法など、さほど難しいものでもないが……大陸の人間はそうなのか? まあ、私にかかれば、お前でも無詠唱で魔法くらい使えるだろうさ」

「そうなのか。それは楽しみだ」

 ライヴァネン王国の魔術師たちは魔法を使うにもなにがしらの呪文を使っていた。トールが受けた魔法教育でもそうだった。高度な魔法となると複雑な呪文になるので、それを詠唱なしで使えるとなれば、魔術師の中でも神などと言われていたのである。

 ブランは言った。

「トールの魔法は、そもそも短詠唱ではないか。もうちょっと頑張れば無詠唱でもいけると思うのだがな」

 最小のワードで使える短詠唱。しかしこれは簡単な魔法である場合が多く、魔術師よりも騎士や魔法戦士などが好む。剣と盾を装備した前衛の戦士が、長ったらしい呪文を唱えている暇などないからだ。

 だからトールのような前衛の聖騎士は、大半の魔法は戦闘向きの短詠唱を使う。

「低位の魔法なら無詠唱でいけるかも、と思ったことはあるが……」

「魔法などイメージの問題だ。お前に魔法を教えた者はそこまでのレベルに達していなかったのだろうな」

「そりゃあブランとは比べられないさ」

 魔術師でありながらさらに魔女なんて異名を持つということは、相当レベルの高いということだ。

 そんな彼女からすれば、大陸の魔術師は大したことない、などと思っても仕方がない。

「それじゃあ、どんどんやっていこうぜ、ブラン」

「……それなんだがな、トール」

 すぅ、とブランが視線を逸らした。トールは訝る。

「何かトラブルかい?」

「うん。疲れた」

「は?」

 疲れたと言ったか、この魔女。まだ作業をはじめて、さほど時間も経っていない。

「ひょっとして、今の魔法、相当魔力を消費する?」

「まあまあ、ぼちぼちな。……綺麗な仕上がりだろう?」

「それはそうだけど……」

 それも大事ではあるが――トールの視線にブランは苦笑した。

「あーあー、白状するよ。バテました! 今の私が、力を十二体の大魔獣に分けられた話はしただろう? 容量が少ないんだ。足りないと文句を言うのなら、そこのハンマーアームゴーレムでも倒して、私の力を取り戻しておくれ」

 確かにブランは言っていた。まだ力は限られていると。

「そういう話だったもんな。俺の魔力を使えよ」

「すまんな。お前の魔力、借りるぞ」

 ちなみに使った後、返すあてがあるのだろうか。トールは思ったが、言葉尻をつかんだ野暮な問いだから、口にすることはしなかった。

 そうして一時間。こだわりのマイホームが完成した。

「外の見栄えはあまりよろしくないが――」

「トール、カモフラージュと言ってくれ」

 ブランが拗ねた。モンスターの多い暗黒島である。敵対的生物の襲撃を回避するため、あくまで外見は廃墟の一部と思わせるようにしてある。トールは頷く。

「中はそれなりのものになったな。今夜はゆっくり休めそうだ」

「お疲れ様。……まったく魔力が有り余っているな、トールは。おかげで私もいい仕事ができたと自負している。さすがだな、トール」

 お、おう……。あからさまに褒められて、トールは赤面した。美しい人からの好意には、ときめかずにはいられない。案外自分はウブなのだと、トールは苦笑するのだった。


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