I-download ang App
55.55% 薬神のレシピ 〜救済か破滅か〜 / Chapter 5: 初めての依頼

Kabanata 5: 初めての依頼

朝の薬師ギルドは、人と瓶の音で落ち着かない。壁の魔法灯が淡い光を落とし、磨かれた床に薬草の匂いが流れていた。

「合格者、こちらへ」

受付の前で、係の男が札を掲げる。

ルークが近づくと、男は紙束を一枚抜いた。

「まずは現場経験だ。市街南区の診療所、応援に入ってくれ。患者が増えて手が回らん」

リリィが横で手を上げる。

「聖女見習いの同行許可を貰っています。私も行けますか」

「問題ない。薬の指示は薬師が出すこと、以上」

後ろの机で、先輩薬師らしき男たちがちらりとこちらを見る。 

「新入りか」

「邪魔だけはするなよ」

「……聞こえてますよ」

ルークが苦笑まじりに返すと、男たちは肩をすくめた。別の机で帳面をつけていた女薬師が、ちらと視線だけ寄越して紙をめくる音が続く。朝のざわめきが、そのまま流れていった。

「ルークさん、行きましょう」

「ああ。地図は?」

「ここです。南区、柳通り」

二人はギルドを出た。空を輸送獣が渡り、石畳には朝の屋台が並ぶ。香辛料の袋が積まれ、魔導灯の芯を売る声が飛ぶ。

「今日は賑やかだな」

「市場の日だそうです。帰りにパン、買って帰りましょう」

「合格祝いの続きか」

「はい、もちろん」

柳通りの診療所は、朝から人でいっぱいだった。扉の外まで椅子が並べられ、魔法灯が下がっている。受付前で揉める声も聞こえた。

「支給薬はもう半分もないぞ」

「効きが鈍い患者が多い。熱と咳、呼吸が浅い。順番に回して」

白衣の薬師が眉間を押さえ、棚の瓶を探っている。待合では誰かの咳が続き、子どもをあやす歌が小さく混じる。

リリィが名乗る。

「聖女見習いのリリィです。応援に来ました」

「薬師のルークです。指示を」

「助かる。あちらの寝台が空いたところだ。高熱の子ども、呼吸が浅い。標準の解熱では下がらん」

その時、若い母親がルークの袖を掴んだ。

「どの薬でも効かないんです……どうか、お願いします」

ルークは落ち着いた声で頷く。

「試してみます。お子さんの名前は?」

「ミナです。昨夜から熱が……」

「わかりました。リリィ、手伝ってくれ」

「はい」

寝台の上、少女は額に布を当てられ、苦しそうに息をしている。ルークは脈を取り、胸の上下を確かめた。

「高い。呼吸も早い。咳は乾いてる」

診療所の棚を見て、支給薬草の箱を引き寄せる。

「銀葉草、赤根花、青晶茸……揃ってる。薄香草も少し」

リリィがミナの手を握り、穏やかな声をかける。

「大丈夫。すぐ楽になります。ここにいますからね」

ルークは手を洗い、器具を並べた。火口に小さな炎を点す。

「温度は弱火。銀葉草は時間をかけすぎると効きが落ちる」

「はい」

「赤根花は根の皮を薄く剥いで、刻みは揃える。青晶茸は先に処理、毒気を触媒に変える」

周囲の薬師が遠巻きに見ている。

「触媒を先に?」

「また変なのが来たな」

ルークは気にせず、銀葉草をほぐして鍋に入れた。弱火で静かに煎じる。

赤根花は刃を滑らせる音だけが残る。

青晶茸は石皿に広げ、薄く均一に熱を当てた。匂いは漏らさず、温度はぶれない。

「ルークさん、ミナちゃんの額、熱が上がりきってます」

「ちょうどいい。銀葉草、今だ」

鍋の縁で小さな泡が均一に立つ。ルークは泡の速さを見て、赤根花を三度に分けて落とした。

「ここで焦らない。色が濁らないように」

「はい」

青晶茸は半透明になった芯だけを残して砕く。乳鉢の音が静かに続き、砕けた粉が光を受けて沈む。

「触媒、投入」

濁りが一瞬だけ広がり、すぐ澄んだ。ルークは器を水盆で少し冷やす。

「甘味をわずかに。薄香草、指先ひとつ」

「飲みやすくするんですね」

「子どもには大事だ」

小瓶に移して、光に透かす。琥珀色が均一だ。

「ミナちゃん、少しずつ飲もうか」

リリィが背を支え、ルークが匙で口元へ運ぶ。少女の喉がいくつか動いた。しばらくして、肩の上下がゆっくりになっていく。

待合のざわめきが、少し引いた。近くの椅子にいた老人が、息をつめる気配だけ残す。

母親が息を呑む。

「……呼吸が、落ち着いてる」

ルークは脈を再度取った。

「下がってきています。あと二口」

少女は目を薄く開け、リリィを見た。

「……あったかい」

「よかったね。もう少し飲もう」

飲み終えるころには、額の熱がわずかに引き、頬の赤みが落ち着いていた。ルークはメモを取り、紙を差し出す。

「昼前にもう一度、半量。夜は様子を見て、無理はさせないで。水分を」

母親は何度も頭を下げ、涙声で続けた。

「ありがとうございます……本当に……この子、また外で、走って笑えますか」

ルークは短くうなずく。

「ゆっくりでいい。数日は安静に。咳が引いたら、少しずつ。笑えるようにします」

母親の肩の力が抜け、指が子の手を優しく包んだ。「よかった……」と小さな声が落ちる。

近くの薬瓶に触れていた手が一つ止まり、遠巻きに見ていた数人が言葉を失ったように黙り込む。

遅れて、薬師の一人が近寄る。

「……効いたのか?」

別の男が肩をすくめる。

「たまたま当たっただけかもしれん」

ベテランらしき薬師が手順書を見ながら渋い顔をした。

「確かに効き目はある。だが、あの青晶茸の処理は危うい。失敗すれば毒気が出る」

リリィが一歩前に出る。

「ここで救われた命を、どうか認めてください」

言葉は静かだが、よく通った。周囲はまた黙り、匙の音だけが戻った。

所長らしき初老の男が奥から出てきた。

「助かった。今日だけで三十人は来ている。君たちがいて助かった」

「依頼書に署名をお願いします」

「もちろんだ」

所長は判を押し、紙をルークに渡した。

「また手が要る時は頼む」

「はい。いつでも言ってください」

往路と反対の流れに押されながら、二人はギルドへ戻った。市場はさらに賑わい、空には小さな配送鳥が行き来している。

「ミナちゃん、落ち着いてよかったです」

「うん。飲みやすさは正解だった。君が横で支えてくれたのも大きい」

「えへへ、役に立てました」

ギルドに着くと、受付嬢が顔を上げた。

「お帰りなさい。報告を」

ルークは依頼書と簡単な記録を差し出す。

「南区診療所、応援完了。解熱一件、処置指示と服用紙を添付」

受付嬢はぱらぱらと目を通し、淡く頷いた後、少しだけ間を置いた。

「……ふむ。現場からこういう報告、久しぶりですね。記録は薬師長にも回します。手順の共有、検討されるでしょう」

「そうですか」

「次の依頼は明日以降で」

「わかりました」

ギルドの柱の陰に、黒衣の影が立っていた。視線が一瞬だけ重なる。男の唇がかすかに動いた――言葉にはならない小さな形だけ。次の瞬間、外光の中へ溶けた。

「ルークさん?」

「いや、何でもない。宿に戻ろう」

外に出ると、夕方の風が涼しい。大聖堂の鐘がひとつ鳴った。

リリィが横で小さく笑う。

「今日も一人、助けられましたね」

「ああ」

ルークは肩の荷を持ち直し、歩き出した。

「明日は服用紙をもう少し簡単にしよう。図を増やす」

「描きます。絵は任せてください」

「頼りにしてる」

二人の影が並ぶ。石畳に魔法灯がともり、街は夜の支度を始めていた。


next chapter
Load failed, please RETRY

Lingguhang Katayuan ng Kapangyarihan

Rank -- Pagraranggo ng Kapangyarihan
Stone -- Bato ng Kapangyarihan

Sabay-sabay buksan ang mga kabanata

Talaan ng Nilalaman

Mga Opsyon sa Pagpapakita

Tagpuan

Font

Laki

Mga komento sa kabanata

Sumulat ng pagtatasa Katayuan ng Pagbabasa: C5
Hindi nagtagumpay ang pag-post. Pakisubukan muli
  • Kalidad ng Pagsulat
  • Katatagan ng mga Update
  • Pagbuo ng Kuwento
  • Disenyo ng Karakter
  • Tagpuan ng Mundo

Ang kabuuang puntos 0.0

Matagumpay na nai-post ang pagsusuri! Magbasa ng higit pang mga pagsusuri
Bumoto gamit ang Powerstone
Rank Blg.-- Pagraranggo ng Kapangyarihan
Stone -- Powerstone
Mag-ulat ng hindi naaangkop na nilalaman
Mali na Paalala

Mag-ulat ng pang-aabuso

Mga komento sa talata

Mag-login