「この女、なかなか逃げ足が速いな」
「どうする?まもなく日が暮れる。見つけられなければ、俺たちの首が危ういぞ」
「たかが一人の女、どれほど逃げたところで知れている。手分けして探せ。もし見つけたら狼の遠吠えで合図しろ。他の者がすぐに駆けつける。必ず蘇氏を仕留めるのだ」
数人の賊がそう申し合わせ、散っていった。
蘇晩は小柄な体を利して、草むらに身を潜め、林の奥をじっと窺っていた。
やがて一人の賊が視界に入った瞬間、彼女は静かに息を整えた。
――やはり狙いは自分。
心の奥で冷ややかに笑みを浮かべ、背後を通り過ぎた賊に忍び寄ると、ためらいなく喉元を斬り裂き、草叢に引きずり込んだ。
ほどなくして、また一人の不運な男が現れ、同じように葬られた。
空は刻一刻と暮れてゆく。蘇晩は思案の末、倒した賊の衣を脱ぎ取り、自らに纏って変装した。
そして夜が訪れると、あたかも自分が賊の一味であるかのように、堂々と林を歩き回った。
間もなく一人の賊が近づき、ぶつぶつと愚痴をこぼした。「この林の蚊の多さときたら……いくら探してもあの女の……」
言葉は最後まで続かなかった。目を見開いたまま、口を塞がれた男は声もなく崩れ落ちる。
胸を突き刺していた刀を引き抜いた蘇晩は、さらに森の奥へと足を運んだ。
また一人、また一人と命を奪う。
だが、前の持ち主が病み上がりだったこともあり、彼女の体はすでに限界に近づいていた。
それでも林の中にはまだ敵が潜んでいるかもしれぬと、気を緩めることはできない。
しかし、今回は長い間、賊に出くわすことはなかった。
追跡して森に入ってきたのは、四人の賊だけで、しかもすでに全員仕留めたと思ったその時、背後から突然、黒い影が飛びかかってきた。
不意を突かれ、左肩に刃が食い込んだ。
咄嗟に地面へ転がり、二撃目を避ける。
血走った目の賊が怒号とともに襲いかかる。
「この女!命を置いていけ!」
その瞬間、前方から突如として火光が溢れた。
ざわめく足音と共に、鋭い声が響く。
「傅殿!傅夫人はこちらに!」
賊は驚愕し、背を翻したが――「パシン」と何かが膝を打ち抜いた。膝が砕けたように崩れ落ち、もはや立ち上がれない。
絶望の色を宿した目を上げると、そこには松明に照らされながら現れた一群の近衛たち。そして彼らに囲まれ、青衣を纏った一人の男が悠然と立っていた。
炎に照らされたその姿は、まるで天から降り立った仙人のごとく俊逸清雅。しかし一瞥を投げかけただけで、人を震え上がらせるほどの冷厳さを帯びていた。
「捕えよ」低く響いた声は落ち着いていながら、支配する者の威圧を含んでいた。
観念した賊が何事か口にしようとした刹那――横合いから伸びた手が顎を捻り上げた。
「ゴキリ」という音と共に、賊の顎はだらりと垂れ下がり、二度と閉じられなくなる。
額から滲み落ちる冷汗。
「殿、この者、毒を噛み切って自害しようといたしました」無表情のまま手を引いた黒装の若き侍衛は、淡々と報告した。まるで顎を砕いたのが自分ではないかのように。
「……うむ」青衣の男はわずかに応じ、その場の空気をさらに張り詰めさせた。