「お母さん、うりりんは犬だよ……」
それもプードルで、薬を使わなくても、スケベ犬というあだ名は伊達じゃない。
斎藤詩織は頭に黒線が走った。
これが実の母親なのか?
彼女は急に小林颯真に同情を覚えた。
自分の息子に飲ませる薬を、犬で実験するなんて、小林の母以外に誰がするだろう。
小林の母は理不尽に言い張った。「犬がどうしたの?あなたは種の差別をしちゃだめよ。犬も哺乳類で、心臓も肝臓も脾臓も胃も腎臓も、私たちが持っているものは彼らも全部持っているのよ。人間だって猿から進化したんだから!」
「わかったわ、お母さん、あなたの勝ちよ。」
詩織は鶏のスープをお碗によそって外に持っていった。
スープは香ばしくて美味しそうだったが、颯真のあの冷たい顔を見ていると、まったく食欲が湧かなかった。
可哀想な颯真、実の母親に計算されて、彼も十分惨めだ。
詩織が彼をぼんやり見つめていると、突然睨まれて、胸がドキッとして、急いで頭を下げてスープを飲んだ。
颯真が一杯飲み終えると、小林の母はまた一杯よそった。
彼が断ろうとする素振りを見せるたびに、小林の母は涙を浮かべ始めた。
颯真は仕方なく、もう一杯飲むしかなかった。
熱々のチキンスープを飲み込むと、颯真はすぐに全身が熱くなり、汗が出始めた。
詩織は颯真の頬が赤くなり、呼吸が荒くなるのを見て、薬の効果が出てきたことを悟った。
あの夜も彼はこうだった。重い呼吸が顔にかかって、くすぐったくてゾクゾクした。
彼女は箸を持つ手を思わず強く握り締め、手のひらは汗でいっぱいになった。
緊張して足がふらつく、彼女は何を期待しているのだろう……
汚れも気にしない、もう救いようがない!
颯真は自分の体の変化に気づいたが、その方向には考えなかった。今夜は最初から調子が悪かったのだから。
彼は二杯目のスープを飲み終えると、立ち上がって出ていこうとした。アパートに帰って冷水シャワーを浴びるつもりだった。
まだ願いが叶っていない小林の母が、彼を簡単に行かせるはずがなかった。
小林の母はすぐにスープを持って追いかけた。「颯真、もう一杯飲んで。」
「もう結構だ。」颯真はきっぱりと断った。
「飲んでよ、母さんがもう持って来たのに……あら……」小林の母は庭の苔を見つけると、わざとそこを踏み、足を滑らせて、スープを全部颯真の上にこぼした。
颯真の表情が暗くなり、実の母を冷たく見つめた。今日は一体何をしようとしているのだ?
「あらま、服が全部汚れちゃった。ごめんね息子、母さんは年を取って、足元がふらついちゃって。やけどしなかった?早く上に行ってお風呂に入って着替えてきて。本当にごめんね。」
小林の母は謝り続け、颯真は何も言わずに、振り返って部屋に戻り、お風呂に入りに上がっていった。
颯真が部屋に入るのを見送った詩織は、小林の母に親指を立てた。「すごいわ、お母さん!」
「当たり前でしょ。」小林の母は得意げにポーズをとった。「母さんが誰だか忘れたの?さあ、あなたの出番よ。早く行って。来年、孫を抱けるかどうかは、今夜のあなた次第よ。」
いざ自分の番になると詩織はビビってしまい、もじもじしながら言った。「お母さん……やっぱりやめておくわ……颯真は私のこと全然好きじゃないし……無理に結ばれても幸せになれないわ……」
「早く行きなさい。あなたが孫を産んでくれたら、もうこの息子はいらないわ。これからは小林家の全てがあなたの息子のものになるの。」
「お母さん……」
甘い言葉が通じないと、小林の母は感情に訴え始めた。「詩織、あなたはあの前田って名前のあばずれに私をいじめさせるつもり?小林家の全てを彼女の手に渡すことはできないのよ。詩織、お母さんがお願いよ、お母さんに孫を産んで、小林家の財産を守ってちょうだい。」