第12話:新しい始まり
[雪音の視点]
二時間のフライトを終えて、私は皇都の空港に降り立った。
搭乗ゲートから出ると、人の波に押し流されそうになる。皇都は故郷とは比べ物にならないほど大きな街だった。
スマートフォンを確認すると、先輩からメッセージが届いている。
『迎えが来てるから、到着ロビーで待ってて』
でも、到着ロビーを見回しても、それらしい人は見当たらない。
名前を書いたプラカードを持った人もいるけれど、私の名前はない。
少し不安になって、もう一度メッセージを確認しようとした時だった。
「先輩」
背後から声をかけられて、振り返る。
そこには、明るい笑顔を浮かべた男の子が立っていた。背は高くて、人懐っこそうな顔をしている。
でも、誰だろう?
「えっと......」
私が困惑していると、彼は少し寂しそうな表情を見せた。
「先輩、たった五年で僕のことを忘れちゃったのか?」
五年?
その言葉をきっかけに、記憶の扉が開いた。
「もしかして......陽向(ひなた)?」
「そう!陽向光輝(こうき)だよ」
彼は嬉しそうに笑った。
「やっと思い出してくれた」
大学時代の後輩だった。確か、研究室の飲み会でよく話していた。いつも元気で、周りを明るくしてくれる子だった。
でも、こんなに背が高かったっけ?
「光輝......随分大きくなったのね」
「五年も経てば、そりゃ変わるよ」
光輝は自然に私のスーツケースを取った。
「荷物、持つよ。先生が待ちきれないほど君を待ってるんだから」
その気さくな態度に、私は少し戸惑った。
冬夜のような冷静で控えめなタイプと長くいたせいで、こんなに積極的な人とどう接すればいいのか分からない。
「ありがとう......でも、自分で持てるから」
「遠慮しないで」
光輝は私の手首を軽く掴んで、駐車場の方向へ歩き始めた。
「早く行こう、先輩。先生は待ちきれないほど君を待ってるんだよ」
彼の手の温かさが、手首に伝わってくる。
なんだか、心臓の鼓動が少し早くなった。
車での移動中、光輝は運転しながら色々な話をしてくれた。研究室の近況や、皇都での生活のこと。
私はほとんど相槌を打つだけだったけれど、彼の明るい声を聞いていると、不思議と心が軽くなった。
そして、ついに研究室の建物に到着した。