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35.71% 俺、感情回収師。始まりは神の涙を回収したことだった / Chapter 10: 最終章:君の名前を、もう一度

Chapitre 10: 最終章:君の名前を、もう一度

佐々木隼人の目は、笑っていなかった。 文化勲章を首に提げた慈愛の巨匠の仮面は剥がれ落ち、そこには嫉妬と恐怖に顔を歪ませた、ただの老人の素顔があった。

「……小僧、貴様、今そこで何をした?」 彼の声は低く、威圧的だった。警備員たちが、ただならぬ雰囲気を察知してこちらへ向かってくる。

絶体絶命。 だが、僕の心は不思議なほど静かだった。僕の後ろには、数十年の時を超えて、復讐の機会を待ち続けた一つの魂がいる。僕の胸には、この街で出会った人々の、温かい善意の光が満ちている。

僕は、光の剣を握りしめた。

「佐々木隼人さん」 僕は、彼を真っ直ぐに見据えて言った。 「あなたの罪は、才能ある一人の画家から、その未来と名前を奪ったこと。そして、その死を何十年も踏みつけ、偽りの名声という玉座に座り続けてきたことだ」

僕は、決戦のために蓄えた全ての感情を、その言葉に乗せた。 スキル、『断罪の言霊(ジャッジメント・ワード)』。

【感情ポイント1000を消費し、スキルを発動します】

僕の言葉は、物理的な力を持った衝撃波となって、佐々木隼人に叩きつけられた! 「ぐっ……!?」

彼は、まるで胸を突かれたかのように後ずさる。彼のオーラに深く刻まれた黒い《罪悪感》が、僕の言葉に共鳴し、内側から彼を苛み始めたのだ。

「何を……何を言っている、この小僧は!」 彼は叫ぶ。だが、その声は虚しく震えていた。

「あなたは覚えているはずだ! コンクール前夜、あなたが盗み出した、一冊のスケッチブックのことを!」

第二の言霊が、彼を打ちのめす。 「があっ……!」 佐々木隼人は、膝から崩れ落ちた。来場者たちが、何事かと遠巻きに見ている。

「そのスケッチブックは、どこにある! それは、あなたのものではない! 如月しおりという、忘れられた天才のものだ!」

最後の言葉が、決定打となった。 佐々木隼人は完全に恐慌状態に陥り、狂ったように叫んだ。 「違う! あれは俺のだ! 俺の才能だ! あの女は、ただの暗い絵しか描けない、疫病神だったんだ!」

その時だった。 僕の隣で、月読さんが静かに桐の箱を開けた。中から現れたのは、呪われた絵画『奈落の少女』。

絵が外気に触れた瞬間、美術館全体の空気が凍りついた。絵から溢れ出した、黒い《絶望》と《怨嗟》のオーラが、佐々木隼人めがけて殺到する!

「ひぃぃぃぃっ!」 彼は悲鳴を上げ、腰を抜かして後ずさる。その醜態は、もはや巨匠の威厳など微塵も感じさせなかった。

「もう、やめてあげて」

静かな声が、響いた。 声の主は、黒い怨念の中心――『奈落の少女』の絵そのものからだった。絵の中の少女が、初めてはっきりと、その哀しげな顔をこちらに向けていた。

彼女の魂――如月しおりが、僕に語りかけている。 『もう、いいの。私のことなんて、もう誰も覚えていない。私の絵は、誰かを不幸にするだけ……』

違う。 そうじゃない。

僕は、佐々木隼人が落とした鍵を拾い上げ、アンティークの机の引き出しに差し込んだ。中から出てきたのは、ボロボロになった一冊のスケッチブック。

僕はそれを手に取り、如月しおりの絵の前に、そっと開いて見せた。 「見てください、如月さん。これが、あなたの魂だ」

スケッチブックには、生命力に溢れた線で、たくさんの笑顔が描かれていた。公園で遊ぶ子供たち、日向で昼寝をする猫、愛おしそうに赤子を抱く母親。彼女が本当に描きたかったのは、絶望ではなく、日常に溢れる、ささやかで温かい光だったのだ。

「あなたの絵は、暗くなんかない。誰よりも光を渇望し、誰よりも人を愛していた。だからこそ、その光を失った時の絶望が、誰よりも深くなってしまっただけだ」

僕は、この事件に関わった全ての人々の、温かい感情を思い浮かべた。 秋山教授の《後悔》。 倉田さんの《感謝》。 ストリートミュージシャンの《勇気》。

そして、僕の胸に最後に残った、ひだまりのような《愛情》の光を、スケッチブックを通して彼女の魂へと注ぎ込んだ。

「あなたの名前は、如月しおり。あなたの絵は、確かにここに存在する。そして、その才能と魂は、僕が、僕たちが、覚えている」

黄金の光が、絵の中の少女を優しく包み込む。 彼女の頬を、一筋の涙が伝った。それは、呪いと絶望の涙ではなかった。何十年という時を経て、ようやく流すことができた、安堵と解放の涙だった。

『……ありがとう』

少女は、最後にそう言って、ふわりと微笑んだ。 次の瞬間、絵から全ての闇が消え去り、そこにはただ、穏やかな表情で眠る、一人の美しい少女の肖像画だけが残されていた。

呪いは、解けたのだ。

呆然とする人々の中、警備員に連行されていく佐々木隼人の姿が、やけに小さく見えた。彼の嘘の城は、こうして、音を立てて崩れ去った。

帰り道、夕日が差し込む『時のかけら』で、月読さんが僕に微笑んだ。 「お疲れ様、神木くん。最高の仕事だったわ」 「……僕は、何も」 「ううん」と彼女は首を振る。「あなたは、一つの魂を救ったのよ」

僕は、自分の胸にそっと手を当てる。 相変わらず、僕の心は静かなままだった。 でも、ほんの少しだけ。ほんの少しだけ、その水面に、温かい波紋が広がったような気がした。

感情のない僕と、謎だらけの美人店主。 僕たちの奇妙な物語は、まだ始まったばかりだ。

【第一部・完】


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