名家の令嬢は、憧れの台本を破った

岩井詩織――北橋市の名門、岩井家の令嬢。才能と美貌を備えながら、虚弱で短命と決められた「手の届かない憧れ」として誰もが遠巻きに崇める存在だった。

ある夜、詩織は奇妙な夢を見る。自分のいる世界が、誰かの書いた小説の中だという予感。その小説では、病に沈む父が心の慰めを求め、妻に似た少女・田中香奈を養子に迎える。香奈は柔らかく癒しのオーラを放ち、やがて家族や恋人、友人たちの同情と愛情を一身に集める。詩織は次第に脇役へと追いやられ、抗えない運命の元で“悪役”と見なされ、やがて凄惨な末路を迎える――硫酸による醜化、飛び降り自殺、そして死後に残る莫大な遺産はすべて香奈の手に渡る。

だが、詩織はそこで終わらない。母を救えなかった自責と、これまでの「消えゆく運命」への嫌悪から、彼女はふと「生きたい」と願う。台本を破り捨て、運命に抗う決意を固めた詩織は、人々から距離を置きつつも、研究に打ち込み、音楽に打ち込み、投資で資産を築き上げる。正体を暴き、悪人を懲らしめることも怠らない。誰よりも長く生き、誰も彼女の財産に触れられないようにする――それが彼女の新たな誓いだ。