小川の向こう側には竹林の小屋が秦芩の前に現れ、その前には巨大な石碑がそびえ立ち、「薬界」の二字が刻まれていた。
「薬界……? ここはどこだ?」秦芩は呟くと、周囲を見回した。なんとも不思議な空間ではないか。
確かに病室にいたはずが、目を開ければこのような神秘的な場所にいたのだ。ふと、かつて読んだ書物に「空間」という存在について書かれていたことを思い出す。まさか、あの伝説のようなものが……
「そうです、ご主人様! ここは『薬界』という空間ですよ!」
澄んだ声と共に、小さな鳥が秦芩の前に現れた。全身が真紅で、長い火のような尾を持ち、頭には鮮やかな色彩の羽毛が盛り上がっている、とても可愛らしく美しい小さな生き物だった。
小鳥は嬉しそうに秦芩の胸に飛び込み、甘えるようにすり寄った。「ご主人様、ついにあなたにお会いできました! 小鳳、ずっとずっとお待ちしていたんです!」
秦芩は甘えてくる小鳥を無視することもできたが、彼女はむしろ小鳳の羽を軽くつまみ上げ、細めた目でじっと観察した。「化けているのか、この雀は?」
その言葉と、やや軽んじた口調に、小鳳は頭の羽を逆立て、ほっぺたを膨らませて抗議した。「小鳳は雀じゃありません! 鳳凰です、鳳凰! 百鳥の王ですよ!」
「鳳凰……?」秦芩はつまみ上げられた小鳳を改めて見つめた。この小さな生き物が、伝説の鳳凰だというのはにわかには信じがたい。
この空間は一体何なのだ。神秘的なだけでなく、言葉を話し、自分を鳳凰と称する小生き物まで現れるとは。
「もうっ、ご主人様! さっきも言いましたけど、ここは『薬界』です。上古の薬神が残した空間で、神界が消え去ってから何千万年もの間、異次元で眠っていました。でも、ご主人様の血によって目覚め、小鳳もご主人様と出会えたんです!」
小鳳の不満げな説明を聞きながら、秦芩は細めた目で燃えるような赤い小鳳を見つめた。「お前、私の心中が聞こえるのか?」
小鳳は懸命にうなずいた。「ええ、小鳳とご主人様は心で通じ合っていますから!」
なるほど、どうやらあの血のせいのようだ。
沈黙する秦芩を見て、小鳳は興奮しながらぱたぱたと飛び回り、彼女の周りを旋回した。「ご主人様、ご主人様! 目を閉じてください。小鳳が『薬界』のすべてをお伝えします!」
秦芩は警戒心を解き、うなずいて目を閉じた。次の瞬間、小鳳ちゃんの羽が額に触れ、無数の光の粒が脳裏に流れ込んでくる。それは『薬界』にまつわる記憶だった。
ここは上古薬神が遺した独立した空間であり、果てしなく広がっている。
外の世界にはない霊気が満ち、それが動植物の成長を促し、動物に霊性を与え、植物を驚異的な速さで生長させる。普通の人間がここで採れたものを口にすれば、健康長寿を得られるという。
しかし残念なことに、『薬界』は長きにわたって主を失っていた。役立つ薬草や植物の多くは先代の薬の神とともに消え去り、今は小鳳ちゃんと、たいして役に立たない草花や蝶々だけが残されているのだった。
秦芩は小川に架かった木の橋を渡り、向こう岸の竹林の小屋へと歩みを進めた。小屋の左側には広大な黒い土地が広がっているが、今は何も植えられていない。小鳳が説明するところによれば、ここには薬草や野菜を育てることができるという。小屋の右側には、水だけがたたえられた空の池があった。
「これは……何だ?」
池を観察していた秦芩の目が、竹林の小屋の一角に留まる。そこには小さな龍の彫像が空中に浮かび、口を大きく開けて、雪のように真白な泉を滴らせていた。黒くくぼんだ石臼に満ちた泉の水は、あふれると小川へと流れ込んでいる。
秦芩は手を伸ばし、泉の水をすくい上げようとした。その瞬間、飛来した小鳳が必死に止められた。
「ご主人様、だめです! これは薄めていない霊泉です。効果が強すぎて、洗髄伐経(体質改善)はできますが、今のご主人様の体調と、人前で倒れている状況では飲むべきではありません。お体が回復してから飲み、洗髄伐経を経てから、煉薬神が残した『天医経』を修練すべきです」
「『天医経』……? それは何だ?」
「『天医経』は……」
小鳳が説明しようとしたその時、空間の外から、秦安の慎ましい呼び声が聞こえてきた。
秦芩は表情を引き締め、小鳳にうなずいた。「話は後にしよう。まずは外に出る」
「はい! またお会いしましょう、ご主人様!」
次の瞬間、秦芩は空間から消えた。小鳳はぱたぱたと羽ばたき、ぽつんと取り残された空間を見つめた。
外の世界、行ってみたいな……。この空間の中、ちょっと退屈だよ……。