一夜の後。
朝の微かな光が窓から差し込み、言野梓の整った顔に落ちた。彼女の長い睫毛がわずかに震え、ゆっくりと目を開いた。
しかし目を開いた瞬間、梓は呆然とした!
清楚で無垢な男の寝顔が、彼女と直面している!
彼女の顔色は一瞬にして雪のように真っ白になった。
梓はまったく信じられなかった。五年前の出来事がまた繰り返されるなんて!
彼女はまた見知らぬ男性と、訳も分からないまま……
絶対に許せない!
「起きたのか?」
男性の魅力的な声が、熟成された酒のように突然耳元を掠めた。
梓は服を着る動作を急に止めた。顔を上げると、彼女の驚いた視線が、あの夜空のように深い瞳と合った。
昨夜の光景が一気に脳裏に蘇り、梓の顔は複雑な表情になった。
修はその緊張で赤くした顔を見つめ、薄い唇がかすかに微笑んだ。
修が口を開こうとした時、ちょうど携帯電話が鳴り始めた。
梓は修が電話に出ようとしているのを見て、急いで服を着終え、ドアに向かって走り出そうとした。
「本当なのか?」
修は電話の向こうの声を聞きながら、眉を寄せ、ドアに向かって走る梓を見つめ、深い瞳から冷たい光が放たれた。
梓はそんなことを気にする余裕はなかった。こんなことが起きたから、頭の中は真っ白で、ただこの場から逃げ出したいと思っていた。五年前のあの時と同じように。
しかし、彼女がドアをわずかに開けた瞬間、腕が強引な力で拘束された。
「バン」という音と共にドアが強く閉まり、その瞬間、梓は外から何か騒がしい声が聞こえたような気がした。反応する間もなく、彼女は修に押さえつけられ、ドアを背にしたまま囲まれた。
「あなたって…離して!」
梓は顔を赤らめながら必死に抵抗した。
あまりにも近い距離で、否応なく昨夜の光景を思い出させられた。
この男のオーラがあまりにも強く、彼女は怖くて身動きできなかった。
「言え、誰に頼まれて来た?」
修は美しい手で梓の丸みを帯びた尖った顎をつかみ、薄い唇から冷たい質問が漏れた。
梓はとても意味不明に感じたが、なぜか目の前の男性に恐怖を覚えた。
「言ってる意味が分からないわ!早く離して!」
「分からない?」
修は冷笑し、氷のような瞳で梓をじっと見つめた。
「……」
梓は修の率直な質問に顔を赤らめた。
「あなたのこと全然知らないし!」
昨夜は言野悠がキング財団に無事入社できたお祝いで、たった一杯のお酒を飲んだだけなのに、気を失うほど酔ってしまった。
でも自分が寝ていた部屋になぜ見知らぬ男性がいて、しかも……
「ドンドンドン!」
緊張した沈黙の中、ドアをノックする音が聞こえた。
外には大勢の人がいるようだ。なぜこんなことに?
梓は驚いて固まり、全身の神経も緊張してきた。
修は顔を曇らせ、梓の手をつかんで部屋の奥へと引っ張った。
「何するの!離して!昨日のことは絶対に何かの誤解だわ、私は何が起きたのか全然分からないし……」
梓が説明しようとしたが、言葉が終わらないうちにベッドに投げ出された。
彼女は驚いた小鹿のように後ずさり、キラキラと輝く星のような瞳で、この不機嫌そうな男性を警戒するように見つめた。
「お金が欲しいの?いくら必要?払うから!」
梓は自分でもなぜ、そんなことを言ったのか分からなかったが、ただ早くここから出たかった。
「お前が俺に金を?」
修は胸が詰まる思いで、顔をさらに曇らせた。
「自分が何を言ったのか、分かっているのか?」
「もちろん分かってるわ、お金を払えば取引完了ってこと!」
梓は澄んだ瞳を上げて反論した。
修の目はさらに冷たくなり、鋭い氷の瞳で梓を軽く見た。
秀美な眉と鼻、赤い唇と白い歯、肌は白く、猫のように丸くて大きな目が警戒して彼を見つめた。どう見ても、修には梓がまだ成人したばかりの少女に見えた。
そしてこの目は、まるで……
しかし梓の服装を見たとき、修の眉はさらに寄った。
「お前は安田市立大学の学生か?」
「……」
梓の心臓がドキッと跳ね、驚いて目を見開いて修を見つめ、手のひらは一気に冷たくなった。
自分が安田市立大学の学生だということを、彼に知られたなんて!
しまった!
修は細長い目を上げ、高い位置から慌てた表情の梓を審査するように見つめた。
「今このドアから出たら、安田市で生きていけなくしてやる。卒業なんて妄想もするな」
「……」
これは……脅し?
梓は拳を握りしめたが、怒りを出す勇気もなかった。
なぜか分からないが、目の前の男性には危険な雰囲気があり、おまけに無視できないほどの強大なオーラを持っている。
この感覚が梓にこう告げた。この男は自分が手を出せる相手ではないと。彼女の人生はすでに十分険しい道を歩んできた。これ以上自分を苦しめたくない。
ドアの外ではまだ多くの人が動き回る音がしている。梓は不思議に思い、言野悠に電話をかけたが、誰も出なかった。家にかけても誰も出なかった。
この時間なら、晃はもう幼稚園で授業を受けているはずだろうか?昨夜帰らなかった私のことを、彼は心配しているだろうか?
梓の思考は混乱し、部屋の雰囲気も重苦しく感じた。
修は洗面を終えて浴室から出てきた。スーツ姿で、冷たく気品があり、美しい顔立ちは魅力的で、女性が目を離せないような魅惑的な雰囲気を放った。
梓は星のような瞳を大きく開いて彼を見つめ、そうしているうちに、この男性の顔立ちが自分の息子に少し似ているように感じた。気のせいだろうか?
更に観察している間に、梓は修がまた電話を受けるのを見た。彼の声はとても魅力的で、低く沈んでいるが、清らかで爽やかにも聞こえる。聞いていると無関心そうだが、その口調は反論を許さないものだった。
「ついて来い」
「え?」
梓は顔を上げ、修が自分に話しかけていることを確認した。
「ついて行くって?なぜあなたについて行かなきゃいけないの?何をするつもり?」