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篠原彰人の表情は、カラーパレットよりも鮮やかだった。
青くなったり、白くなったり。
最後は、見抜かれた恥ずかしさと怒りが入り混じった表情で固まった。
「斎藤詩織、どうしてもそんな言い方をするつもりか?」
「他にどうすればいいの?」私は腕を組み、少しあごを上げた。「あなたに深い愛を演じろっていうの?あなたにその資格があるの?」
文化会館の入り口は人の出入りが絶えず、すでに私たちの方を指さして話す人たちがいた。
彰人は明らかに事を大きくしたくないようだった。
彼は声を低くし、脅すような口調で言った。「つぼみは俺の娘だ。会う権利も、養育を要求する権利もある。協力しないなら、法廷で会うことになるぞ」
「法廷?」私は笑った。「いいわよ。ちょうどいい機会だわ。裁判官に見てもらいましょう。三年間も実の娘に関心も寄せず、養育費を一円も払わなかった『父親』が、どの面下げて親権を争うつもりなのかって」
私は一歩前に進み、彼の耳元に近づいて、私たち二人だけに聞こえる声で言った。
「ついでに、三年前にあなたがどうやって『麻薬中毒で不特定多数と関係を持つ』母親を家から追い出したのかも、みんなに思い出してもらいましょうか。どう思う?今回、裁判官は被害者家族のあなたを信じるかしら、それとも『加害者』本人の私を信じるかしら?」
私が一言言うごとに、彼の顔色はどんどん青ざめていった。
三年前のあの汚名は、彼が自ら塗りつけたものだった。
今やそれは、彼を繋ぎ止める鎖となっていた。
彼が体面を保ったまま金を手に入れたいなら、当時のスキャンダルを蒸し返すわけにはいかない。
なぜなら彼は「被害者」の夫であり、「淫らな」妻を寛大に許した良い男だったから。
この仮面は彼自身が進んでつけたもの。外そうとすれば、皮一枚引き剥がされることになる。
彰人のもどかしそうな様子を見ていると、三年間胸に詰まっていたわだかまりが、少し軽くなった気がした。
彼は歯の間から言葉を絞り出した。「一体何がしたいんだ?」
「消えて」
私はたった一言だけ言った。
そして振り向きもせずに、文化会館の中へ入っていった。
背後では、マイバッハのエンジンが悔しげに唸っていた。