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「何ですって?」
「美流、今何て言ったの?パリ路線に乗務したいって?聞き間違いじゃないよね。あなた、二度とパリには飛ばないって誓ったじゃない?五年前にそのことで、私が本社に特別申請したら、散々叱られたのよ」
林川美流がメッセージを送ってから1分も経たないうちに、電話がかかってきた。電話の向こうからは、驚きと信じられないという声が聞こえてきた。
五年前、美流がパリ行きの便で事故に遭った後、彼女は本社に申請書を提出した。二度とパリには飛ばない、もし本社がその要求を認めなければ辞職すると。
この件は、当時航空会社のベテラン社員たちの間で広く知られていた。
それなのに今、彼女が自らパリ行きの便に乗務したいと申し出るなんて、驚かないわけがない。
「本気です、木村さん。本社にもう一度申請してください。できるだけ早く!」美流の声は、いつになく断固としていた。
「一体何があったの?」電話の向こうから、さらに質問が続いた。
「木村さん、一つ聞きたいんですが、この三年間、みんな私が渡辺晴彦に対して越境したと思っていますか?私が光明を裏切ったと思っていますか?」美流は少し黙った後、電話に向かって尋ねた。
彼女のこの質問に、相手も沈黙した。多くの場合、沈黙こそが最良の答えだ。
「わかりました、木村さん」美流は苦々しい表情を浮かべた。「晴彦が私の教え子になってから、私はもう光明とちゃんと食事をしていないような気がします。祝日を一緒に過ごすこともなくなりました。彼へのプレゼントも適当に選んで、同じものを何度も贈ってしまったり...さっき数えてみたら、この三年間で光明との婚姻届の提出を延期したのが十数回もありました」
「でもそれでも、本当に彼と別れるなんて考えたことはありませんでした」
「でも今日、光明は退職して、パリに行ってしまいました」
美流がここまで話すと、電話の向こうからようやく返事があった。
「わかった」
この言葉の後、電話は切れた。
30分後、メッセージが届いた。
「本社が了承しました。明日のパリ行き最初の便、あなたが乗務することになりました」