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Chapitre 5: 第五話 陰陽寮見学

 翌朝、陰陽寮での本格的な見学が始まった。朝靄の中を行く牛車の中で、蓮麻呂は昨夜の成果を思い返していた。改良火術の成功、式神召喚の習得――前世の知識と現世の身体が完全に融合した時の感覚は、言葉では表現できないほど素晴らしいものだった。

「今日は実技の見学もあるぞ」

 道長が息子たちに向かって言った。

「蓮太郎、蓮次郎、お前たちの実力を見せてやれ」

「はい、父上」

 二人は自信に満ちた表情で答えた。一方、蓮麻呂は複雑な気持ちで彼らを見つめていた。

(兄上たちの実力...一体どの程度なのだろう)

 陰陽寮に到着すると、まず式神制作工房を見学した。職人たちが丁寧に人形を彫刻し、そこに様々な術式を刻み込んでいく。その精密さと美しさに、蓮麻呂は見とれていた。

「素晴らしい技術ですね」

「ああ。式神術は我が陰陽道の真髄の一つだ」

 案内をしていた陰陽頭・安倍晴明が説明した。

「しかし、真に優秀な陰陽師ならば、既製の式神に頼らず独自の式神を創造できる」

 その言葉に、蓮太郎が反応した。

「晴明様、よろしければ実演をお許しください」

「ほう、蓮太郎殿がですか。ぜひ拝見しましょう」

 工房の一角に設けられた実演台で、蓮太郎は懐から一枚の紙を取り出した。手慣れた様子で複雑な折り方を施し、鷹の形に仕上げる。

「式神召喚・紙鷹!」

 蓮太郎の手から放たれた霊力が紙鷹に宿ると、それは見事に空中に舞い上がった。羽ばたきの音まで再現された精巧な式神に、見学者たちから感嘆の声が上がる。

「見事だ」晴明は満足そうに頷いた。「将来有望な若者ですな」

 続いて蓮次郎の番になった。彼が選んだのは土術による式神創造だった。

「式神召喚・土人形!」

 床の土が自然に集まり、人間の形を取る。二足歩行で動き回る土人形に、今度はより大きな驚きの声が響いた。

「素晴らしい。蓮次郎殿も相当な実力をお持ちだ」

 兄たちの実演に、蓮麻呂は内心で舌を巻いていた。

(確かに高い技術だ。特に蓮次郎兄上の土術は、理論的にも完成度が高い)

 しかし、同時に改良の余地も見えていた。霊力の流れに無駄があり、術式の構造も最適化されていない。前世の知識があれば、さらに効率的な方法を見つけられるはずだった。

「蓮麻呂殿も何か実演されますか?」

 晴明の提案に、その場の空気が微妙に変わった。蓮太郎は苦笑いを浮かべ、蓮次郎は同情的な目を向ける。

「いえ…...私はまだ」

 蓮麻呂が遠慮しようとした時、道長が口を開いた。

「せっかくの機会だ。やってみなさい」

 断り切れなくなった蓮麻呂は、実演台に向かった。周囲の視線が痛いほど感じられる。

(ここは...わざと失敗した方がいいかもしれない)

 昨夜の成功を思えば、兄たちを上回る実力を見せることも可能だった。しかし、それは政治的に危険すぎる。藤原家の三男が突然覚醒したとなれば、様々な憶測を呼ぶだろう。

 蓮麻呂は基礎的な火術を選んだ。しかし、意図的に霊力の流れを不安定にし、威力を最小限に抑える。

「炎弾」

 右手から放たれたのは、小さな火花に過ぎなかった。それもすぐに消えてしまい、何の効果も与えない。

「うーむ」晴明は困ったような表情を浮かべた。「まだまだ修行が必要ですな」

「申し訳ございません」

 蓮麻呂は深く頭を下げた。しかし、心の中では別のことを考えていた。

(これでいい。今は実力を隠すべき時だ)

 見学を終えて帰路につく牛車の中で、兄たちの会話が耳に痛かった。

「蓮麻呂には別の道を考えた方がいいかもしれませんね」

 蓮次郎が父に向かって言った。

「学問の道とか」

「そうだな」

 道長は重々しく頷いた。

「陰陽師としての素質には限界があるようだ」

 蓮麻呂は窓の外を見つめながら、拳を握り締めた。

(いつか必ず...この屈辱を晴らしてみせる)

 しかし、その「いつか」は思ったよりも早くやってくることになる。運命の歯車は、既に静かに回り始めていた。


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