Télécharger l’application

Chapitre 11: 第十一話 兄たちの疑念

 鬼熊討伐の一件から三日が過ぎたが、屋敷の空気は日に日に重くなっていた。蓮麻呂は書斎で陰陽道の古典を読みながら、兄たちの視線を感じていた。

「若様」

 小菊が茶を運んできた。その表情にも、心配の色が濃く浮かんでいる。

「ありがとう、小菊」

「あの……最近、蓮太郎様と蓮次郎様のご様子が変ですが……」

小菊の指摘は的確だった。確かに兄たちの態度は明らかに変化していた。以前の軽視する態度とは違う、疑念の視線を感じる。

「きっと、政治的な問題で忙しいんだろう」

 蓮麻呂はそう答えたが、実際には彼らの心境の変化をよく理解していた。長年見下してきた弟が、突然自分たちを超える実力を見せつけた。その衝撃は想像以上に大きかったはずだ。

 夕食の席でも、兄たちの様子はおかしかった。

「蓮麻呂」

 蓮太郎が口を開いた。

「あの日の術式について、もう少し詳しく聞かせてもらえないか?」

「あ、はい」

 蓮麻呂は慎重に答えた。

「まだ理論的に整理できていないので……」

「理論?」

 蓮次郎が割り込んだ。

「君がそんな高度な理論を独学で身につけられるとは思えないのですが」

 その言葉には、明らかな皮肉が込められていた。蓮麻呂は内心で苦笑した。

(確かに、この身体の主の記憶だけでは不可能だろうな)

「運が良かっただけです」

「運?」

 蓮太郎の表情が厳しくなった。

「鬼熊を一撃で倒すのが運だと?」

「偶然、妖怪の弱点を突けたのかもしれません」

「弱点……」

 蓮次郎が呟いた。

「しかし、その術式は明らかに従来のものとは違っていました。どこで学んだのです?」

 追及が厳しくなってきた。蓮麻呂は慎重に言葉を選んだ。

「古い文献を読んで、自分なりに解釈したものです」

「古い文献? 具体的には?」

「えっと……」

 蓮麻呂が答えに詰まっていると、道長が口を開いた。

「詳しい話は後にしよう。今は橘家の件が急務だ」

 父の割り込みに、兄たちは不満そうだったが、それ以上追及しなかった。しかし、食事が終わった後、蓮太郎が蓮麻呂を呼び止めた。

「少し話がある」

 二人は庭の東屋に向かった。月明かりの下で、蓮太郎の表情は普段以上に深刻だった。

「――率直に聞く」

 蓮太郎が振り向いた。

「お前、いつから本当の実力を隠していた?」

「兄上……」

「とぼけるな」

 蓮太郎の声に怒りが滲んだ。

「あの術式は、一朝一夕で身につけられるものではない。相当な修行と研究が必要なはずだ」

 蓮麻呂は兄の激しい感情を感じ取った。怒り、困惑、そして……嫉妬。

「長年、お前を見下してきた自分が情けない」

 蓮太郎が拳を握り締めた。

「しかし、それ以上に理解できないのは、なぜ隠していたかということだ」

「それは……」

「家督争いを避けるためか?それとも、俺たちを出し抜くつもりだったのか?」

 蓮太郎の疑念は的外れだったが、彼の立場を考えれば理解できる反応だった。長男として将来を嘱望されてきた彼にとって、弟の覚醒は脅威以外の何物でもない。

「そんなつもりは……」

「ないと言うのか?」

 蓮太郎が一歩近づいた。

「だが、現実問題として、お前の実力が知れ渡れば家督相続の構図は変わる」

 その時、茂みの影から蓮次郎が現れた。

「兄上、話は聞かせてもらいました」

「蓮次郎……いつから?」

「最初からです」

 蓮次郎の表情は冷静だったが、その瞳の奥に危険な光が宿っていた。

「実は、私も同じことを考えていました」

 二人の兄に挟まれた蓮麻呂は、状況の深刻さを実感した。これは単なる家族の話し合いではない。政治的な駆け引きの始まりだった。

「蓮麻呂」

 蓮次郎が口を開いた。

「正直に答えてください。あなたの本当の実力は?」

「本当の実力……ですか?」

「鬼熊討伐は氷山の一角でしょう。実際には、もっと高いレベルに達しているのではありませんか?」

 鋭い指摘だった。蓮次郎の洞察力は、予想以上に優れている。

「答えによっては」

 蓮太郎が続けた。

「我々も考えを改めなければならない」

 その言葉の裏に隠された意味を、蓮麻呂は敏感に察知した。脅しだ。もし自分が彼らにとって脅威となるなら、何らかの対策を講じるという宣言。

「兄上たち……」

「家族だからこそ、正直になるべきです」

 蓮次郎の笑顔にはどこまでも冷ややかだった。

「隠し事があるのは、悲しいことですから」

 蓮麻呂は深呼吸をした。ここで全てを明かすべきか、それとも曖昧にごまかすべきか。どちらを選んでも、状況は悪化する可能性があった。

「実力については……まだ自分でも把握しきれていません」

「把握しきれない?」

「はい。最近、急激に理解が進んで……どこまでできるのか、よくわからないんです」

これは嘘ではなかった。現代科学の知識を応用すれば、理論的にはさらなる高みを目指せるはず。しかし、実際にどこまで可能かは未知数だった。

 兄たちは顔を見合わせた。そして、蓮次郎が意味深な笑みを浮かべた。

「そうですか……それなら、確認する方法がありますね」

「確認……ですか?」

「はい。近々、実力測定の機会を設けましょう。正式な形で」

 蓮太郎も頷いた。

「それがいい。曖昧な状態では、お互いに不安だ」

 二人の提案に、蓮麻呂は嫌な予感を覚えた。これは単なる実力測定ではない。何か別の思惑が隠されている気がしてならなかった。

 その夜、一人になった蓮麻呂は深く考え込んだ。兄たちの嫉妬と危機感は予想以上に深刻だった。このまま放置すれば、さらに大きな問題に発展しかねない。

(慎重に行動しなければ……)

 しかし、時すでに遅し。兄たちの心の中では、既に弟を排除する計画が動き始めていた。そして、それは橘家の野望と複雑に絡み合いながら、予想もしない方向へと発展していくことになる。


next chapter
Load failed, please RETRY

Cadeaux

Cadeau -- Cadeau reçu

    État de l’alimentation hebdomadaire

    Rank -- Classement Power Stone
    Stone -- Power stone

    Chapitres de déverrouillage par lots

    Table des matières

    Options d'affichage

    Arrière-plan

    Police

    Taille

    Commentaires sur les chapitres

    Écrire un avis État de lecture: C11
    Échec de la publication. Veuillez réessayer
    • Qualité de l’écriture
    • Stabilité des mises à jour
    • Développement de l’histoire
    • Conception des personnages
    • Contexte du monde

    Le score total 0.0

    Avis posté avec succès ! Lire plus d’avis
    Votez avec Power Stone
    Rank NO.-- Classement de puissance
    Stone -- Pierre de Pouvoir
    signaler du contenu inapproprié
    Astuce d’erreur

    Signaler un abus

    Commentaires de paragraphe

    Connectez-vous