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Chapitre 6: 6

6

浴室の引き出しに、明らかに私のものではないカミソリが置いてあった。

ドアの外では、田中誠一がちょうど伊藤藍子に電話をかけていた。

「伊藤さん、病院にカミソリがなくて本当に不便なんです。以前、伊藤さんの家の洗面所にカミソリを置き忘れたんですが、持ってきてもらえませんか?」

藍子は電話を聞きながら、浴室に入ってきた。

ちょうど私が開けた引き出しを目撃してしまった。

彼女の視線はちらりと逸れたが、結局は部屋を出て、電話の相手にこう言った。

「見つからないわ。スーパーで新しいの買ってくるわね。」

「伊藤さんは本当に優しいですね。」

藍子の誠一に対する忍耐力は無限のようで、カミソリのブランドやモデルといった細部まで一つ一つメモしていた。

彼女が電話を切った頃、私の荷物はちょうど詰め終わったところだった。

彼女は少し気まずそうに振り返って説明した。「誤解しないで。彼はただあの日雨に濡れて、ちょっと身なりを整えに来ただけよ。」

私は無表情で答えた。「わかってるよ。」

藍子はイライラした様子で言った。「なんでいつもそんな冷たい顔してるの?もしそんなに気になるなら、私が行かなければいいじゃない。」

私は軽く笑って、気にしていないことを示した。

藍子は私の表情を観察し、本当に怒っていないことを確認すると、ためらいながら外に向かった。

ドアのところまで行ったとき、彼女はまた戻ってきて尋ねた。「荷物をまとめてどこに行くの?」

私ははっきりと答えた。「パリよ。」

藍子は何かを思い出したようで、全身の緊張が解けた。「来週にしましょう。時間を空けて、パリに新婚旅行に一緒に行くわ。」

別れの最後の日に、藍子はかつての私たちの約束を思い出したのだ。

残念ながら、もう遅すぎた。

空港で搭乗を待っている間、ちょうど誠一が特別に見るように促したSNSの投稿が目に入った。

写真では、彼がベッドに横たわり、顔の下半分が泡だらけで、女性の小さな手が彼のひげを剃っていた。

動画では、藍子が甘やかすように「じっとしてて」と言っているのが聞こえた。

誠一はさらにハートマークをいくつも添えて書いていた。

【手を怪我して水に触れられないから、伊藤さんがどうしても自分の手でひげを剃ってくれるって。これからもずっとこうやって面倒を見てくれるって言ってくれたんだ。】

ちょうどその時、藍子からメッセージが届いた。

【来週予定ができちゃった。チケットはキャンセルして、来月時間を作って一緒に行きましょう。】

彼女は知らなかった。私は最初から彼女の分のチケットを予約していなかったことを。

離陸前、私は弁護士に離婚協議書を彼女に送らせた後、機内モードにした。


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