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Bab 7: 007

あの小さな想いを、俊介は誰にも話さなかった。

もともと話せる相手なんて、西村しかいなかったのだ。

高校三年の西村は、決して楽ではなかった。

彼の抱えている秘密を知っているのは、俊介だけ。

俊介は何度か授業を抜け出して、西村を病院へ連れて行った。

真っ白な顔は、まるで答案用紙のようで、見ているだけで胸が締めつけられる。

その手を握りながら、俊介は「この人は本当に、辛い人生を生きている」と思った。

やがて卒業の日が来て、俊介の中にあった言葉にできない淡い願いも、静かに途切れた。

だがその頃の俊介には、自分の心を顧みる余裕などなかった。

ほとんどの時間を、西村のことを案じながら過ごしていたのだ。

俊介は毎日、一日に一度か二度だけメッセージを送った。

「元気?」「いる?」――それだけ。

西村はすぐに返す日もあれば、数日たってから返信をくれることもあった。

俊介はいつも、ある日を境に返事が来なくなるんじゃないかと怯えていた。

運のいい人生ではなかった。

大学受験のときも、希望した学科には受からず、調整で誰も行きたがらないような専攻に回された。

それでも俊介は、諦めずにその道を選んだ。

ふとした瞬間――何かを見たり、誰かの言葉を聞いたりすると、心の奥に隠していた柔らかな場所に触れてしまう。

触れるたびに胸の奥が温かくなり、彼は思うのだ。

「自分は幸運だ」と。

あの少年のように、自由に、まっすぐに、笑うときの瞳が光に満ちているといい――そう願っていた。

俊介は今でも、彼のSNSを時々のぞいていた。

更新は少ないが、載っている写真も言葉も、もう覚えるほどに読み返した。

だが一度も「いいね」を押したことはない。

祝日のあいさつさえ、送れなかった。

――そして大学三年の初め。

俊介がスマホを手にしたとき、未読メッセージの中に見覚えのあるアイコンがあった。

その瞬間、時間が止まったように感じた。

航平:いる?俊介?

俊介はまばたきをして、数秒間ぼんやりしていた。

それから慌てて返信を打つ。

俊介:いるよ。

相手の返事がまだ来ていないのに、待つのが怖くてもう一通。

俊介:どうしたの?

航平:最近忙しい?ちょっと頼みたいことがあるんだけど。

俊介は即座に返した。

俊介:大丈夫、全然忙しくないよ。何でも言って。

洗面所で顔を拭いていた途中だった。

タオルはまだ首にかけたまま、コップも流しに置いたまま、俊介は動かずにスマホを見つめていた。

三十秒ほどして、航平からのメッセージが届く。

航平:言うのも恥ずかしいんだけどさ、ちょっと情けない話で。[顔を覆う絵文字]

俊介は思わず笑みをこぼした。

俊介:大丈夫だよ、どうしたの?

航平には、小さないとこがいた。

今年大学に入ったばかりで、しかも俊介と同じ専攻に調整されてしまったらしい。

入学して三日で、もう四回も泣いた。

同じ学科の子たちと別の寮になり、道もわからず、学科にも不満をこぼしているという。

ずっと家で甘やかされてきた彼女にとって、一人暮らしは初めての試練だった。

心配した小姑が航平に電話し、「そっちに知り合いいない?少し見てやって」と頼んできたらしい。

航平は長い説明を打つのが面倒になって、結局俊介に音声通話をかけてきた。

俊介はベランダへ出て、通話ボタンを押す。

耳に届いた航平の声は、懐かしくて、少し夢のように感じられた。

俊介の口数は相変わらず少なかったが、高校の頃に比べればずっとましだった。

航平が話すと、間に「うん、うん」と相槌を打って、ちゃんと聞いていることを示す。

航平が呆れてツッコむと、俊介もつられて笑った。

「わかった、わかった。」

俊介は窓にもたれながら笑顔で言った。「明日彼女に会いに行って、全部の棟を案内するよ。」

「そんな面倒くさいことしなくていい。自分で探させればいい。」

航平は言った。「俺が彼女を君に追加させるから、道がわからなくなったときだけ教えてやればいい。普段は気にしなくていい。」

「大丈夫、俺明日授業ないし。」

俊介は肘を窓枠に乗せ、電話を耳に当てたまま言う。「心配しなくていいよ。」

「俺は全然心配してない。小姑が電話してこなかったら、誰も関わらなかっただろうけどな。」

航平がぼやくと、俊介はまた笑った。

「ありがとう、俊介。」

航平の言葉に、俊介はまず「どういたしまして」と答えた。

でも次の瞬間、以前航平がいつも言わせていた「ありがとう、航平」のことを思い出す。

スマホを持っていない方の手を窓の外に垂らし、ひんやりした風を受けながら、俊介は目を細める。

九月の風の温度が、とても心地よかった。

二年以上も連絡を取っていなかったのに、この通話では、まるで昔からずっと仲が良かったかのような気持ちになった。

高校の頃の俊介のように緊張したりこわばったりすることもなく、今は笑顔がずっと多い。

話すたびに、笑みを浮かべながら航平の言葉を聞いている。

かつての社交不安少年は、今や恐れはなくなったが、特別に社交的になったわけでもない。

だが航平のいとこの件では、完全に頼れる先輩として振る舞っていた。

そのいとこも、俊介が思っていたほど甘やかされたわけではなく、接してみると礼儀正しく、ずっと「ありがとう」と言っていた。

この出来事をきっかけに、航平と俊介は頻繁に連絡を取り合うようになった。

いとこは俊介の助けで大学生活への期待を取り戻し、わざわざ航平にメッセージを送った。

航平はすぐに俊介に電話をかけ、いとこの方は礼儀正しくずっと「ありがとう」と言っていた。

航平はこの数日、俊介と連絡を取ることが多くなり、感謝はもう言わなくなった。

電話では関係ない話もしたりして、航平は「戻ったら俊介を呼んで一緒に食事しよう」と言った。

俊介は話すたびに笑顔だった。

今も笑いながら航平に言う。

「ちゃんと、ありがとうって言わないと。」

 


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