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「あなたが欲しい」
橋本愛子(はしもと あいこ)は男性の腕の中で身を寄せ、涙に潤んだ目を上げ、彼の喉仏を見つめた。「ここでする?それとも上の階に行く?」
男は無関心そうに彼女の腰に腕を回し、長い指で彼女の小さな顔を撫でながら見つめ、唇にわずかな嘲りを浮かべた。「俺の記憶が正しければ、お前は初と結婚したら、俺のことを義理のおじさんと呼ぶべきじゃないのか?」
愛子は一瞬たじろいだ。「失礼しました」
彼女は彼の腕の中から身を起こそうとし、体をふらつかせながら、隣の男性の胸に倒れ込もうとした。
野村拓也(のむら たくや)は驚いて即座に椅子を2メートルも引き離し、恐怖に目を見開いて愛子を指差した。「和真さん、なんとかしてくれ!」
「百合クラブ」という風俗店の一室で、四人の男たちが麻雀に興じていた。しかし、女性の接待係を一人たりとも呼んではいない。そこにいるのは、海崎市の四大財閥の当主たち――そう、まさにその面々が揃い踏みしていたのだ。その誰もが、単独で見ただけでも人を畏怖せしめるほどの人物ばかりである。
それなのに、この分別のない若い女が現れるなり、木村和真(きむら かずま)の腕の中に飛び込んできたのだ。
彼女が立ち上がった瞬間、和真はタバコを灰皿に押し付けて消すと、愛子を引き寄せて抱きとめた。
「初がお前に何をした?」
愛子は顔を赤らめ、いらだたしげに眉をしかめた。「私を酔わせて、他の男に差し出したの」
30分前、愛子が目を覚ました時、一人の年取った男が焦って彼女の服を脱がそうとしていた。彼女は全身がだるく力が入らず、抵抗する力さえも湧いてこなかった。しかし、彼女はベッドサイドテーブルの上のスタンドライトを手に掴むと、ありったけの力で男を殴り気絶させた。
しかし、ドアを開けたその瞬間、リビングのソファで絡み合う二人の姿が視界に飛び込んできて、彼女に残酷な現実をまざまざと見せつけた。
最後に小野初(おの はじめ)がシャワーを浴びに行くと、谷口詩織(たにぐち しおり)は床に落ちていた男のシャツを拾い、わざと二つのボタンだけを留めた。
「初さんには隣の部屋に行きましょうって言ったのに、どうしてもここがいいって。姉さんのお楽しみを邪魔しちゃってごめんなさいね」詩織は部屋の中をちらりと見て、妖艶な顔に冷笑を浮かべた。
「詩織、私の男はそんなに簡単に手に入るの?」愛子は壁に寄りかかり、呼吸を整えた。「私を怒らせたら、あなたたちには責任が取れないわよ」
その言葉が詩織の癇に障り、彼女は顔を曇らせた。次の瞬間、何の前触れもなく相手からパンチを食わされた。
すると、愛子は振り返ることもなく立ち去った。
廊下を歩いていると、和真が来店したと夢中になって騒いでいる店員の話し声が聞こえてきた。
彼女は和真に会ったことがあった。彼女と初の婚約パーティーの時に。
彼が尋ねると、彼女は簡単に説明した。「あなたの甥御さんが見つけてくれた男です。私には不釣り合いだったので、彼の急所を蹴り上げてきました。おじさん、見てくれませんか?死んでなかったらもう二刺ししたらどうですか?」
和真は口元を歪めた。「お前を怒らせると命一つで済むとは、贅沢な話だな」
「私、それだけの価値はあるかしら?」
愛子は彼の耳元に寄り、息を吹きかけた。「初は私と寝たことがないわ」
和真は黒い瞳を細め、彼女の腰を掴む手をきつく引き締め、彼女を抱き上げて立ち上がった。
出る際、拓也に一言残した。「片付けて来い。死んでなかったらもう二刺ししろ」
…
和真は階上に専用の部屋を持っていた。
ドアが開くと同時に、愛子はスイッチを探ろうと手を伸ばした。しかし、その手は男に掴まれ、次の瞬間、温もりと涼しさが混ざったような懐に抱き寄せられた。その予期せぬ接触に、彼女は全身を微かに震わせた。
「ちょ…ちょっと待って」
愛子は身をかわした。「体には別の男の匂いがついてる。シャワーを浴びたいの…あっ!」
言葉が終わらないうちに。
彼女の両手は高く上げられ、壁に押しつけられた。
「必要ない」和真の冷たい声が彼女の耳元で響いた。「お前のそんなこと気にしないから」
愛子の熱情は一瞬にして冷めた。
しかし彼女が悲しむ暇さえなく、彼に顎を上げられた。