Bab 5: 不協力_2
Editor: Pactera-novel
授賞式が終わるや否や、敏腕マネージャーの石川静香（いしかわ しずか）が、記者たちよりも早く夏目詩織の腕をつかみ、半ば強引に送り迎え用のワゴン車へ押し込んだ。
ドアが閉まるやいなや、雷のような説教が始まった。
「夏目さん！お願いだから、次から発言する前に一回脳みそ通して！自分の評判がどれだけ地に落ちてるか、わかってます!?あの薄井弦を相手にそんなこと言うなんて、正気ですか!?」
「今、彼は業界の『神様』みたいな存在ですよ！賞も取る、興行収入もトップ、話題性もダントツ。彼のファンなんて、あなたを一瞬で血祭りにできるくらいの勢いなんです。彼が一言『共演したくない』って言えば、あなたの出演オファー、八割は消えるわよ！」
「彼がそんなことするわけないでしょ？」
詩織は納得がいかない様子で目をむいた。
「するに決まってるでしょ！今の彼はトップクラスのコネとリソースを持ってるの！『自前のリソース』ってやつ。たとえ彼が表立って何も言わなくても、あなたが『共演したくない』って明言した時点で、良い台本は全部回ってこないの。スポンサーが選ぶのは、あなた？それとも彼？」
詩織は何も言い返さなかった。
その沈黙が、事実を受け止めている証拠だった。
静香は胸を押さえて、大きく息を吐いた。
「あんたさ……二日前の件、忘れたとは言わせないからね？少しはおとなしくしてなさいよ。中天グループの御曹司を殴ったって聞いたわよ？しかも公衆の面前で！相手、激怒して『故意傷害』で訴える気満々だったのよ!? 秦野さんが裏でいろいろ動かなかったら、今ごろ拘置所で面会してたわ！」
その話を聞くと、詩織の顎がすっと上がった。
「殴られて当然でしょ！浮気して、しかも複数プレイ？周防美保があんなのに泣かされるなんて許せない！」
「殴るにしても場所考えなさいっての！」
石川静香はもはや歯ぎしり寸前だった。「そこ、パパラッチの巣って知ってたでしょ!?せめて裏路地に連れ込んでから殴りなさいよ！それに顔よ！よりによって顔をヒールでひっかくとか……傷跡バッチリ残ってるのよ！言い逃れできないじゃない！」
詩織はうんうんと真面目に頷いた。
「学んだわ。次は人目のないところで殴る。狭い路地とか。あと、顔は殴らない」
「いや、学ぶな！反省して！」
石川静香はもはや頭を抱えた。
「それに、そもそも周防美保が交際してないて言い張ったから、全部あなたのせいになったのよ。彼、芸能界デビュー狙ってるって話よ？あなたの知名度利用して話題作りしてたんでしょ！」
「周防美保と私は違うのよ。彼女は知的で清純なキャラで売ってるし、所属事務所との契約に『スキャンダル禁止』があるの。バレたら違約金を払わなきゃいけない。だから黙るしかないのよ。……彼女、私の古い友人だし、そんな人じゃない。絶対に私を裏切らないわ。」
詩織の声は次第に小さくなっていった。
「じゃあ裏切るのは私でいいわけね？」石川静香は座席に背を預け、大きくため息をついた。
「夏目さん、秦野さんが地方に行ってるこの二日間、私が代わりに見てるけど……お願いだから、少しは静かにして。私、秦野さんほど修羅場慣れしてないの。もしまた何かやらかしたら、マジで首飛ぶからね。あなたが暴れたけりゃ、秦野さんが戻ってきてからにして。私はまだ死にたくない」
車内に、ようやく静けさが訪れた。
しばらくして、運転席の唐沢が詩織に水のボトルを差し出すと、彼女はそのまま静香に手渡した。
「ほら、さっきからしゃべりすぎて喉渇いたでしょ」
その何気ない一言に、石川静香は思わず吹き出した。怒りが少し和らぎ、自分のボトルを開けながら詩織にも一本渡す。
そしてキャップをひねりながら、ふと口を開いた。
「ねえ、あんたと薄井弦……本当に何の確執もないのよね？普段は短気でも、自分から喧嘩売るタイプじゃないじゃない。なのに、さっきの態度……一体どうしたの？」
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