温かい抱擁から離れると、石川惜は寒気を感じ、急いで暖かい布団に潜り込み、体を反転させて男に背を向けた。
目尻から一筋の涙が流れ落ち、暗闇に隠れ、音もなく消えていった。
惜が目を覚ますと、隣にいたはずの男の姿はもうなかった。彼女は目の奥の失望を隠し、起き上がって身支度を整え、簡単に片付けてから階段を降りた。
郁雷司はリビングのソファに座っていた。階上から足音が聞こえると、彼は顔を上げて一瞥した。
惜は淡い色合いのジーンズに、とてもシンプルな白いシャツを着ていた。髪は後ろでポニーテールに結び、全身から若々しい雰囲気が漂っていた。
彼女はソファに座っている雷司を見て足を少し止めたが、すぐに自然な様子に戻り、目に笑みを浮かべながら自ら挨拶した。
「郁社長、おはようございます」
雷司は彼女の呼びかけを聞き、目が冷たくなった。
「おはよう」
彼の声には温もりがなく、目を伏せて手元の雑誌を見続けた。
林さんはすでに朝食の準備を終えており、惜が階下に降りてくるのを見ると、すぐに二人に声をかけた。「旦那様、若奥様、朝食の準備ができました」
惜は軽く頷き、ダイニングルームに入って椅子を引いて座った。
雷司は無表情で入ってきて、惜の向かいの席に座った。
二人は向かい合って座り、誰も口を開かなかった。
朝食を終えると、惜は立ち上がって出ようとした。
雷司もすぐに箸を置き、惜に一瞥をくれた。「私の車に乗れ」
惜はその言葉を聞き、頷いて答えた。「はい」
彼女の車はまだ老夫人のところにあり、運転手がまだ届けてくれていなかった。
病院。
佐々木雪は朝早くから石川惜のオフィスの前で待っていた。
惜と雷司がエレベーターから一緒に出てくるのを見て、彼女の表情が一瞬こわばった。
「二人で来たの?」
惜は隣の男に淡々とした視線を向け、彼が答えないのを見て、唇の端をわずかに上げ、頷いた。
「ええ」
彼女の答えはあっさりとしていて、雷司の警告するような視線がすぐに向けられた。
「郁社長がわざわざ迎えに来てくれたんです」
「佐々木さんは本当に幸せね、郁社長があなたをそんなに大事にしてくれて」
雪は惜の言葉を聞いて、警戒していた表情をやや緩めた。
「私と雷司は、ただの友達よ」