大門をしっかり閉めた芸一は、急いで楚老爺の部屋に戻り、隠し棚からあのネックレスを取り出した。桃の木札の下にぶら下がっている褐色のペンダントが、以前よりもはるかに透明感を帯びていた。
その光景に心臓がドキドキと高鳴り、意念でペンダントに語りかけてみたところ、すぐに予想が的中したことを確信した——まさに「柳暗花明また一村」である。
余計な騒ぎを避けなければならなければ、大声で叫びたいくらい興奮していた。
「入る」と心の中で念じると、身体がスッとその場から消えた。
目を開けて見渡すと、この空間は以前に持っていた空間とは全く違ったが、それでも大きな機縁には違いない。
ただ、その喜びの後には少しの失望もあった。
喜びは、この空間が手に入ったことにより、今後の行動が大いに便利になり、自分だけの“切り札”も得られたこと。
失望は、周囲を見渡しても一面が岩ばかりで、緑の気配がまるでないこと。中央に石造りの家と、少し離れたところにある石の東屋以外、何も存在していなかった。
石の大きさも色もバラバラで…
「この空間、どこが“奇妙”なんだろう?」
最初は、あの石の東屋はただの休憩場所だと思っていた。
だが近づいてみると、東屋の中心には井戸があり、傍らには小さな石碑が立てられていた。「泉霊」と二文字が刻まれており、その石の材質は、血を吸った後のペンダントとまったく同じだった。
どうやら、自分の目が節穴だったようだ——玉をただの石と思い込んでいたとは。あのペンダントは、見た目と違ってただの物ではなかった。
目の前の井戸も非常に精巧で、水面がすぐ手に届くほど浅く、きっとただの井戸ではない。
「まずはこの空間をしっかり理解してから、一口試してみよう」と心に決めた。
だが、その探索を始める前に——またしても外から大きなノックの音。
芸一は仕方なく不機嫌そうに空間を出て、心の中で「夜更けになったらまた来よう」と思った。
ドアを開けると、そこにはいかにも気取った顔をした孫瑞明が立っていた。
「原主」の眼は本当に節穴だったらしい、こんな表裏のある男を好きになるなんて。
「何の用?」と冷たく一言。
孫瑞明(ソン・ルイミン)は芸一(ユイイ)の手を取ろうとしたが、避けられてしまった。「芸一、大丈夫か?」
芸一は彼を冷ややかに一瞥して、淡々と返した。「見てわからないの?」
彼女の態度の変化に気づかず、孫瑞明は彼女が楚老爺(祖父)の死を悲しんでいるのだと思い込んでいた。「中に入って、一緒に話そうか?」
以前なら彼女は笑顔で迎えてくれた。そう思って一歩踏み出したところを、芸一がピシャリと遮った。「やめておいて。男女が二人きりじゃ、今の私にはよくないわ。おじいちゃんもいなくなったし、もっと慎ましくしないと。」
孫瑞明は不満を感じつつも、無理やり押し切る勇気もなかった。「じゃあ、明日小燕(シャオイエン)と一緒に来てもいい?」
芸一は肯定も否定もせず、淡々と一言。「今ちょっと忙しいの。帰って。」
それだけ言うと、彼女は扉を閉めた。
空も暗くなってきた。仕事帰りの人たちも戻ってくる時間だ。近所の人たちが「かわいそうな子」と思って様子を見に来るだろうと、芸一は思った。今夜はやることがある。とりあえず夕食の準備だ。
その頃…
不機嫌そうに帰宅した孫母(ソン・ママ)は怒りを爆発させた。「あの小娘、何様のつもり!?あんな口の利き方しやがって、覚えてろよ!」
ちょうどその時、孫小燕(ソン・シャオイエン)が帰宅。「ママ、ただいま~」
機嫌が悪い孫母は怒りのはけ口を見つけた。「一日中うろうろして、まともなことは何一つやらないんだから!」
小燕はそれを聞いて、母が怒り始めていると察し、慌てて機嫌を取る。「ママ、誰がママを怒らせたの?」
(本章終わり)