待つのが長くなるかもしれない、あるいは全くレスポンスがないかもしれないと思っていた。
思いがけないことに、翌朝早く、もう返信を受け取っていた。
挨拶も何もなく、ただ住所と時間だけ。
「今夜7時、雅倶楽部、302」
その下に『深淵』というタイトルの台本概要が添付されていた。
これはDV被害者の物語だった。主人公の女性は長期間の精神的・肉体的拷問の下で、黙認から麻痺へと変わり、最後には絶望の中で玉砕覚悟の復讐を遂げる。
役柄は抑圧され、歪み、もがく。
華やかなシーンは一つもない。
でも私は一目で気に入った。
なぜなら主人公の女性の中に、自分自身の影を見たから。
それは完全に潰されたあとで、骨の隙間から再び生えてきた強情さのようなものだ。
夜、隣人の佐藤さんにつぼみの世話を頼み、タクシーで雅倶楽部へ向かった。
ここは東京でも有名な会員制クラブで、かつては私も常連だった。
三年ぶりに来てみれば、景色は同じでも人は変わっていた。
衣料品量販店で見つけた安物の服を着て、豪華絢爛なロビーに立つ私は、この場所のすべてと不釣り合いだった。
接客係が私を見る目には、軽蔑と審査の色が満ちていた。
気にする必要もなく、私は直接部屋番号を告げた。
302号室のドアを開けると、懐かしいシダーウッドとタバコの混ざった香りが私を出迎えた。
林慎はソファに座っていた。
彼は三年前よりも痩せ、輪郭はより鋭くなっていたが、目の中の光は変わらず、清らかで、少し頑固な感じのままだった。
私を見た彼は明らかに一瞬固まり、目に驚きの色が走った。おそらく私がこんな姿になっているとは思わなかったのだろう。
「詩織」彼は立ち上がり、声がやや掠れていた。
「林プロデューサー」私はうなずき、挨拶を済ませた。
抱擁も世間話もない。
私たちの間には三年の風霜と、崩壊した旧世界がすべて横たわっていた。
彼は私に水を注ぎ、単刀直入に聞いた。「台本は読んだ?」
「読んだわ」
「興味ある?」
「あるわ」
彼は隣から完全版の台本を取り出して私に渡した。「これが完全版だ。女性主人公の出番が多くて、それに…辛い役どころだ」
私は台本を開き、あるシーンに目を落とした。
主人公の女性が夫に全身青紫になるまで殴られ、一人で浴室に入り、鏡の前で自分の傷に薬を塗るシーン。台詞は一切なく、すべて目の表情と動作で演じる。
私は台本を閉じて彼を見つめた。「演じられるわ」
「ギャラは安いよ」彼は正直に言った。「僕は帰国したばかりで、すべてのリソースはゼロからのスタートだ。この映画には全財産をかけている」
「ギャラはいらないわ」私は言った。「ただ一つだけ条件がある」
彼は眉を上げ、続けるよう促した。
「この映画を3ヶ月以内に撮り終えて、半年以内に公開すること」
彼は眉をしかめた。「スケジュールがきつすぎる。ポストプロダクション、審査、配給、すべてに時間がかかる」
「これが私の底線よ」私は彼の目を見つめ、一言一句はっきりと言った。「私には長く待つ時間がない。篠原彰人も、私に多くの時間を与えてくれないわ」
林慎は黙った。
彼はタバコを一本取り出して火をつけ、青白い煙が彼の表情を曖昧にした。
しばらくして、彼はタバコの吸い殻を消した。
「わかった」彼は私を見つめ、目には背水の陣の決意があった。「君と一緒に賭けてみよう」