新婚は牢獄、夫は閻魔様

杉山美咲は言う――
「うん、私は二十六歳になったから、妊娠できるわ！」

ところがその直後、雲景市を揺るがす噂が走った。
三大家族の頂点・鬼塚家の皇太子、鬼塚燼が、ある女性を三日三晩ホテルに監禁したというのだ。

人と比べれば落ち込み、物と比べれば捨てたくなる。
堂々と生きたいと願いながらも、美咲ができるのは小さな策を弄することだけ。

けれど――冷たい手錠が手首に落ちた瞬間、彼女は息を呑んだ。

「女、結婚か刑務所か、選べ！」

目の前の男は氷の閻魔そのもの。冷酷で、逃げ道を一切与えない。

美咲――ただの花瓶。
それも最高級の、ダイヤを散りばめた孤高の花瓶。
家柄を語らず、孤独に満足し、静かに生きてきた。

燼――軍人にして雲景市を支配する閻魔大王。
高貴で横暴、冷徹で腹黒。
女を一メートル以内に寄せつけない男。

だが、金箔の輝く婚姻届が美咲の手に落ちた瞬間、彼女は泣きそうになった。
――欲しかったのは赤ん坊であって、夫ではなかったのに。

「この軍人さん、本当に人違いじゃないの？」
震える声で縋るように問う美咲。

「六百五十度の近視で、眼鏡を嫌う女が他にいると思うか？」
冷酷な閻魔は、軽蔑を隠さずに笑った。

燼は言う――
「俺の心にはひとりの人間しか住んでいない。少年の日から白髪になるその時まで、決して忘れない」

美咲は言う――
「男なんて当てにならない。豚が木に登るようなもの。子供さえ産めば、それで十分よ」

だが彼女の計画は、常に彼の掌の上。
差し出したものはすべて、粉々に食い尽くされてしまう――！