山本陽子が再び目を覚ました時には、すでに夜が明けていた。
急いで階下へ駆け下りようと階段に立つと、朝のジョギングから戻ってきた一人と雪豹の姿が見え、思わず後ずさりした。
佐藤直樹は階段の上のミイラのような少女を一瞥すると、彼女に手を振った。「降りてこい!」
ブーツが木の床を力強く踏みしめる音が響く。
彼の威風堂々とした姿に比べ、傍らの雪豹はのんびりしていた。
尾を立ててゆっくり歩きながら、陽子をじっと見つめる。牙を剥かない時は本当に大きな猫のようだ。
こんなペットがいるので、陽子は動けなかった。
「噛まない。降りてこないなら、迎えに行かせる」
「いや…自分で降ります!」
受動的になるより、自ら動く方がいい。
階段を降りて、陽子は警戒しながら近づいてくる雪豹を見つめ、緊張して足を動かせなくなった。
「お前のことが気に入ったようだ。襲う心配はない」
雪豹は彼女の足元で止まり、前足で彼女の足の甲をトントンと叩き、顔を上げて愛嬌を振りまいた。
本当に攻撃する素振りがないことを確認して、彼女はようやく安堵のため息をついた。
野村が朝食を運んできた。陽子はテーブルの上の簡素な中華風の朝食を見て、少し驚いた。
肉まん、饅頭、豆乳、お粥、漬物...まるで普通の家庭の朝食だった。
佐藤直樹のような高貴な身分の人が、こんなに質素な食事をするとは思わなかった!
前世で彼について見た噂は、輝かしい功績の他に、多くはエンタメメディアによる追っかけだった。
彼は京都で厳しく効率的な佐藤若様であり、佐藤家の権力を握る主人であり、同時にファッション界のトレンドセッターでもあった。
だが私生活は極めて控えめで、その謎めいた部分がかえって人々の好奇心を掻き立てていた。
神格化されたこの男は、近づきがたい輝きを放っていた。
「朝食を食べ終わったら野村が送ってくれる」
「ありがとうございます!」
陽子は頷いた。一日何も食べていなかったので遠慮なく席に着いた。
直樹は横目で、その小さくて清楚な顔を見て、静かに言った。「昨夜は助けてもらった。」
「お礼は結構。借りは作りたくないので、これでチャラです。」
媚びない平坦な口調は、彼女の年齢からは想像できないほど大人びていた。
直樹は意外そうに、彼女の細い指先を見つめた。肉まんを割るその指は節くれ立ち、一切の恩をきれいにはぎ取ろうとしている。
彼に関わりたがらない女は初めてだ。
ましてや、こんな青二才の小娘が。
昨夜から今まで、彼女は誰が着替えさせたのか、彼のベッドで寝たことへの不安すら口にしなかった。
図太い神経なのか、それとも単純に鈍感なのか。
「名前は?」直樹は椅子の背もたれに寄りかかり、細長い瞳を少し細めて、じっと彼女の顔を見つめた。
「山本陽子です。雲の山本に、朝日の陽子です」
雲の中の朝日の光、いい名前だ。
陽子は口の中の肉まんを飲み込み、豆乳を飲み終えると立ち上がった。
「ごちそうさまでした。帰りますので、送ってください!」
野村が車で来た時、陽子はすでに自分のぼろぼろの服に着替えて、ドアを開けるとすぐに車に乗り込んだ。
白太郎は彼女が車に乗るのを見ると、飛びかかるように走ってきたが、飛び乗る前に陽子はすでにドアを閉めていた。
窓の外で白太郎はガラスに顔をつけ、前足を動かしながら離れがたそうにしていた。
噛まないとわかっていても、陽子はまだ少し怖かった。首をすくめて野村に早く出発するよう促した。
車が動き出すと、野村はバックミラーで別れを惜しむ人と雪豹を見て、淡々と言った。「白太郎があなたを気に入るなんて珍しい。佐藤若様以外は誰にも懐かないのに!」
陽子は窓の外を見つめ、バックミラーに小さくなっていく人影と雪豹を静かに見た。
今日以降、彼らとは二度と関わることはないだろう。好かれようが好かれまいが、彼女にとっては重要ではなかった。
立ち尽くす直樹はさりげなく視線を外し、薄く笑った。「恩知らずの小娘め。」
別れの言葉すらかけないとは。