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Bab 9: めまい

Editor: Pactera-novel

遊園地の園長は心配そうな表情で彼らをジェットコースターに乗せた。

心の中にはどうも嫌な予感がした。

よりにもよって、詩織はわざわざ最前列の席を選んだのだ。

「お兄ちゃん、一番前に座るともっと楽しそうよ」

花のように美しい少女の顔を前に、宏樹はどんなに怖くても「嫌だ」とかを口にできなかった。

「いいよ」

「詩織の言うことなら何でも」

「詩織の言うことなら、お兄ちゃんは全部聞いてあげる」

しかしジェットコースターが動き出した瞬間、宏樹は後悔した。

自分の先ほどの言葉は少し軽率すぎたようだ。

「きゃああああ!」

後ろからは見知らぬ人たちの悲鳴が聞こえてくる。

宏樹は必死に我慢して声を出さないようにしていた。

小川グループの社長たる者が、ジェットコースターで無様な姿をさらすとは。

そんなことになったら、間違いなく明日のニュースの見出しを飾ることになるだろう。

宏樹は胃の不快感を必死に抑えながら話しかけた。

「詩織、怖くないよ。お兄ちゃんがそばで守ってあげるから」

「どうしても怖かったら叫んでもいいんだよ」

しかしすぐに彼はその言葉が余計だったと気づいた。

なぜなら、隣の少女は泣き叫ぐどころか、とても機嫌よく歌を口ずさんでいたからだ。

詩織は本当に楽しんでいる。こんな楽しみは彼女にとって、久々だった。

彼女の前世や前々世では、あまりにも惨めに生きてきた。

小川家の連中の評価を気にしすぎるあまり、自分自身を見失ってしまっていた。

今になって初めて、自分の思うままに生きることが本当の幸せだと気づいたのだ。

終わった後。

宏樹はゴミ箱に駆け込み、吐いた後ようやく少し楽になった気がした。

「詩織、次はバイキングに挑戦してみる?」

宏樹はティッシュで口を拭いた。彼は妹が傍にいることで、高所恐怖症もそれなりに克服できたような感じがした。

ジェットコースターやバイキングぐらい大したことないだろう?

詩織が刺激的なものが好きなら、刺激的なものに挑戦しよう。

しかし宏樹が振り返ったとき。

そこに詩織の姿はもうない。

宏樹は空っぽになった周りを見て、瞳孔が急に縮んだ。

「詩織?詩織?」

何度か呼んでも返事はなかった。

遊園地の園長が急いでやってきた。

彼はちょうどトイレに行っていたので、少し遅れてしまった。

驚いたことに、トイレを出ると宏樹が何かを必死に探し回っているのを目にした。

「小川社長、どうされました?」

宏樹は拳を握りしめ、かすれた声で言った。

「監視カメラを調べろ!」

「監視カメラを調べろ、詩織が消えた!」

園長はその言葉を聞いて体が震えた。

彼は十分に理解している。小川社長がさっきの少女をどれほど大切にしているかを。

もしその少女が本当にこの遊園地で行方不明になったとしたら。

彼の遊園地は消される結末になるしかない。

園長はつばを飲み込み、急いで彼らを監視カメラ室へ案内した。

彼らが必死に詩織を探して監視カメラを確認している間。

詩織は楽しそうに遊園地内のマクドナルドに来ていた。

「お姉さん、アイスクリーム一つください!」

デザートカウンターの店員は、こんなに可愛い少女を見るのは初めてだと思った。

なのですぐに笑顔が溢れた。

「どんな味のアイスクリームがいい?」

「イチゴ味!」

詩織は自分のタブレットを手に取り、支払いを済ませた。

小川家は彼女にお小遣いを一切くれなかった。

彼女の持っているお金は全て、自分でプログラミングして必死に稼いだものだった。

小川家とは何の関係もない。

ここ数日、家では毎日お粥ばかり食べさせられて、もう吐き気がしそうだった。

そして長正がそばにいる限り、お粥か栄養ドリンクや牛乳などばかりだった。

お願いだから、そういうのを食べさせないでくれる?

だからこそ、今はこうして宏樹に内緒でアイスクリームを買いに来た。

詩織はアイスクリームを受け取るとすぐに、店員に甘く微笑んだ。

「ありがとう、お姉さん!」

ここまでも可愛くて礼儀正しい子供は、この店員も初めて見た。

彼女は思いがけない喜びに少し驚いた。

「どういたしまして、気をつけて行ってね」

宏樹が駆けつけた時、彼が目にしたのは詩織の輝くような笑顔だった。

まるで彼の目を眩ませるほど明るかった。

同時に彼の心は少し傷ついた。

なぜなら妹は彼に対して、こんな素敵な笑顔を一度も見せたことがなかったからだ。

宏樹は感情を整理して、大股で詩織の前に歩み寄った。

「詩織、どうしてお兄ちゃんに内緒でアイスクリームを食べに来たの?」

宏樹は詩織の手にあるアイスクリームを見て、もどかしげに聞いた。

胃が悪いのを承知の上で、こんな不健康なものを食べるなんて。

身体がどうなってもいいのか?

もし他の誰かだったら、宏樹はとっくに叱り飛ばしていただろう。

しかし彼の目の前に立っているのは、彼が一生をかけても償いきれない少女だ。

そんな彼女をどうやって叱るというのだ?

詩織はアイスクリームを胸に抱きしめ、誰かに奪われるのを恐れているかのようだ。

「お兄ちゃん、うちは確かに貧乏だけど、アイスクリームも食べられないほどじゃないでしょ?」

「それに、あなたのお金を使ってないし、私がバイトして稼いだお金だもの」

「あなたに関係ないでしょ?」

宏樹はこの言葉を聞いて、つい口元を引きつらせた。

その言い方だと、まるで彼が一銭も支払わないケチな男に聞こえるじゃないか。

他の人のことだったら、彼でさえ「なんて人でなしの兄だ」と罵りたくなるところだった。

しかし周りの観光客は真実を知らなかった。

「あの子かわいそうじゃない?アイスクリームくらい大したことないでしょ?そもそもそんなに貧乏なら、遊園地には来ないよね。やっぱりケッチ」

「アイスクリームすら食べさせないなんて、あの兄、見た目はいいけど、やることがダサすぎるね」

「そうだね、こんなに可愛い子なのに、僕の妹だったらいいのにな」

周囲の声を聞いて、宏樹の表情は一瞬にして真っ黒になった。

「詩織はいい子だろう。お兄ちゃんは君の体のことを考えてそうしたんだ」

詩織は宏樹の忠告を全く聞こうとしなかった。

むしろ彼の目の前でアイスクリームを食べ始めた。

「あなたに関係ないもん、私の兄じゃないし」

この言葉は再び宏樹を傷つけた。

彼は手を上げて、詩織が抱えているアイスクリームを奪おうとしたが、最終的には手を出さなかった。

しょうがない。

今回だけは彼女の好きにさせよう。

妹は6歳の時家に迎え入れられた。

その後小川家で4年間苦労した。

アイスクリームすら味わったことがない。

そんな彼女を止めるんじゃなかった。

それで詩織がアイスクリームを食べ終えた。

宏樹はようやく気を取り直して、ジェットコースターにまた乗りたいかと尋ねた。

だが詩織は首を振った。

もうそんなことに興味を失った。

彼女はもともと遊びたくて遊園地に来たわけじゃなかった。

今やその目的も達成した。

だから彼女はこんなところでこれ以上時間を無駄にしたくない。

「本屋に行きたい」

詩織は宏樹の後ろについてくる数人を見て、すぐに眉をひそめた。

「大勢がいると嫌」

彼女には美優のような趣味はない。

あの女は外出するといつも大勢の人が付き従う。

大勢の付き添いよりも、彼女は一人でいる方が好きだ。

しかし、宏樹までついてこないのはさすがにありえない話だ。

宏樹は一瞬で彼女の意図を理解し、すぐに自分の助手を解散させた。

それで、あの小川社長が少女の後をぴったりとついていく形になった。

「詩織はどんな本を買いたいの?次に何か欲しいものがあったら、お兄ちゃんに言ってくれれば、お兄ちゃんが直接買ってきてあげるよ」

詩織は彼に答えず、自分のことを考え込んでいた。

世界第21回プログラミングコンテストがまもなく始まる。

このプログラミングコンテストで順位を取りたい。

復習して備えないと。

前世は何年もプログラミングをしなかったせいで、技術がやや錆びついた。


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