山本大輔は余計な質問をせず、私の指を一本一本丁寧に拭き、そのハンカチを自分の懐に入れた。
長年の付き合いで、彼が短気な人間ではないことを知っていた。
むしろ、感情が高ぶれば高ぶるほど、表面的には冷静さを保つ人だった。
その読めない感じこそが、私が彼に対して抵抗感を持つ理由だった。
「藤原一郎との昔の恋を蘇らせたいから、そんな言い訳で私をごまかしているの?」
私は否定する気はなく、はっきりと話し合った方がいいと思った。
山本大輔は笑ったが、その目には笑みは宿っていなかった。
「確かに藤原一郎は妻との間に深い感情はなかったね」山本大輔は冷ややかな口調で言い、話を変えた。「でも、4年前、君と彼が酔っ払って、彼が部屋のカードキーを間違え、彼女と一夜を共にして、その後責任を取るために君と別れた——彼がどれほど君のことを大切に思っていたのかな?」
「何?」私は呟いた。「本当?」
山本大輔はようやく眉をひそめた。「本当に覚えていないの?」
「嘘はつかないわ、山本大輔。昨日の朝目覚めてからよ」私は彼の深い瞳をまっすぐ見つめた。「じゃあ、あなたも本当のことを話して。藤原一郎は私のことをそう簡単に諦めたの?」
山本大輔の瞳が揺れた。おそらく、一生隠し通すことは不可能だと悟ったのだろう。
「実は、木村愛子は、4年前のあの夜にできた子だ。当時、君は子宮が冷えていて、流産すれば二度と子供を産めなくなるところだった」
私は重要な点を捉えた。「私たちは授かり婚だったの?じゃあ、私の学業は?社交は?」
山本大輔は固まった。私がそこに関心を持つとは思っていなかったようだ。
彼の態度は黙認だった。
私は怒って山本大輔を強く押した。
彼は私に対して無防備で、二歩後ずさりした。
私は冷たく尋ねた。「4年前、なぜ私はあなたと関係を持ったの?」
山本大輔は俯いて、拳を軽く握りしめた。
「話して!」
「君は私を藤原一郎だと思っていた」
「そう?」今の私は感情が頭をかすめていた。「じゃあ、あなたは嫌だったはず。なぜ拒まなかったの?本当に私に対して何の感情もなかったの?」
山本大輔は喉を鳴らし、少し狼狽えながら認めた。「...ああ、あった。それで満足か?」
彼の気持ちを知った瞬間、私の心の中の何かが切れた。