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10.52% 許した夫に、奈落へ落とされた / Chapter 2: 第2話:絶望の淵で

Bab 2: 第2話:絶望の淵で

第2話:絶望の淵で

[氷月詩の視点]

階段の底で、私は激痛に身を震わせていた。

お腹が、お腹が痛い。

「蓮……助けて……」

か細い声で夫の名前を呼ぶ。

蓮は階段の上から私を見下ろしていた。その腕の中には刹那がいる。

「詩、俺は君の茶番に付き合っている暇なんてない。刹那は芸能人なんだ。もし手に傷でも残ったらどうする?君って、本当に、最低だな」

茶番?

私が階段から落ちて苦しんでいるのが、茶番だというの?

蓮は刹那を抱きかかえたまま、私に背を向けて歩いていく。

「蓮!待って!お腹の子が……」

でも、もう蓮の姿は見えなくなっていた。

足元を見ると、赤い液体が広がっている。

血だ。

私の血。

そして……赤ちゃんの。

「だめ……だめよ……」

誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえた。

「大丈夫ですか!救急車を呼びます!」

知らない人の声。優しい声。

救急車の中で、私は医師に縋るように訴えた。

「お腹の子を……お願いします、助けて……三ヶ月なんです」

医師の表情が曇る。

でも、まだ希望はある。まだ……。

----

救急隊員が詩の夫に緊急連絡を試みていた。

「竜ヶ崎(りゅうがさき)蓮様でいらっしゃいますか?奥様が階段から転落され、緊急搬送中です。すぐに病院へ……」

しかし、電話に出たのは蓮ではなかった。

「はい、蓮さんの携帯です」

女性の声。甘い、計算された声。

「あの、奥様が危篤状態で……」

「ふふ……氷月詩、あんたも必死ね。子供を使って、蓮さんを取り戻そうなんて——無駄なことよ」

刹那の嘲笑が電話越しに響く。

「蓮さん、また詩さんが嘘の電話をかけてきてるわ。病院に運ばれたって言ってるけど……」

背景で蓮の声が聞こえる。

「無視しろ。どうせまた嘘だ。今はお前の手のほうが大事だ」

電話は一方的に切られ、その後は電源が落とされたようだった。

----

[氷月詩の視点]

消毒薬の匂いで目が覚めた。

白い天井。白い壁。

病院の一室。

「気がつかれましたね」

医師が優しい声で話しかけてくる。

「お腹の子は……」

「申し訳ありません。でも、まだお若いですし、きっとまた授かれますよ」

まだ授かれる。

それは、もう授からないということ。

私の赤ちゃんは、もういない。

蓮の手によって。

蓮の手によって殺された。

「無視しろ。どうせまた嘘だ。今はお前の手のほうが大事だ」

救急隊員から聞いた、あの言葉が蘇る。

ああ、本当に。

私たちは、何もかも、最初から違ったんだ。

涙が頬を伝って落ちていく。

竜ヶ崎家の嫁として。蓮の妻として。そして、母として。

私は全てを失った。

でも、これで終わりじゃない。

絶対に。


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