「高くないよ、彼が言っていた価格は千円だって」
橋本楓:「……」
配信コメント:【……】
橋本楓の表情が瞬時に硬直し、顔の表情がほとんど保てなくなった。
そしてライブチャット内では、元々楽しくコメントしていた橋本のファンたちが一斉に沈黙した。
【橋本楓のファンはみんな沈黙じゃん、ウフフ】
【どうしよう?楓と彼女のファンたちに代わって恥ずかしくなってきた】
【もうダメだ、死にたいほど気まずい!】
……
ライブチャットの人々だけでなく、ちょうど出てきて車を待っていた他の者たちの表情も少しぎこちなくなった。
本来は車が呼ばれて、みんながすぐに車に乗ってホテルに向かうだけでよかったのに、橋本はわざわざこんなことをした。
その結果、彼女が必死に交渉して得た価格が、詩織が軽く頼んだだけで安くなったという話。
まさに自分の足を引っ張っているようなものだ。
みんなバカでもないので、橋本が何を考えているのか、大体分かっている。
彼女が自慢していた優等生のイメージが、詩織という全ネットから嫌われている人物にあっさりと打ち負かされたことに納得できなかったんだろう。
今、みんなが門の前で待っているとき、わざわざ大きな日差しの下でこんなことをされて、雰囲気が一層気まずくなった。
でも、橋本も彼らのために車を止めてくれたので、表面的には誰も不満を言うことはできない。
初に口を開いたのは石川悠馬だった。彼はこの気まずい雰囲気を打破した。
彼は自分のバッグから水を取り出し、橋本に渡しながら言った。「楓も私たちのために頑張ったよ、お疲れ、水でも飲もう?」
楓は心の中でどんなに腹が立っていても、顔には不満を見せずに笑顔で水を受け取った。「ありがとう、悠馬さん」
そう言って水を飲もうとしたところ、詩織がそれを止めた。
「先にホテルに戻ってから飲みなよ、今はS国の斎戒中だから……」
「早森詩織、やりすぎだよ」
また毛利正弘が割って入った。
詩織は眉をひそめ、顔に隠しきれない不満の表情を浮かべた。
だが、毛利正弘は前に詩織に一泡吹かされたことがあったので、今度は決してその機会を逃さなかった。彼は詩織を指さして言った。
「あなたが喉が渇いていないからって、他の人も渇いて楓があんなに太陽にさらされてたんだから、少し水を飲んだっていいじゃない。もしかして、楓が熱中症になってほしいのか?」
「そうだよ、詩織、そんなに自分勝手じゃダメだよ。ホテルに急いで帰りたいとはいえ。ただ水を飲みたいだけで、そんなに時間もかからないよ。それに、わざわざホテルで飲む必要があるの?」
岡田瑞希も口を挟んできた。
二人は一言一句を交わしながら、詩織に言葉を続けさせる隙を与えなかった。
他の者たちは特に言葉を発しなかったが、やはり詩織を疑問の目で見ていた。
ライブチャットでは、沈黙していた橋本のファンたちがまるで狼のように詩織を攻撃し始めた。
【彼女頭がおかしいんじゃないの?ホテルに急いで行きたくて、うちの楓があんなに晒されて、水一口も飲ませられないのか?】
【ずっとこの人が嫌な奴だと思ってた、わざと楓を狙ったんだ。楓は純粋すぎる。早森みたいなクズと一緒に旅行なんて最悪だよv】
以前詩織にいっぱい食わされたことがあるため、今、ライブチャット内では箸持ちのファンたちが悪口を言い尽くし、悪意に満ちた言葉で罵り合った。
そして、詩織を恨んでいた橋本も、今や詩織を庇うことはなく、大きな一口で水を飲み干し、まるでケンカを売るかのように、意味深長な目付きで詩織を睨んだ。
詩織は楓の目と合い、心の中でため息をついた。
仕方ない、忠告は愚か者には届かぬと言うし、彼女が言っても聞かなかったんだから、もう彼女を責められない。
その時、S国の服装をした男女がこちらに向かって歩いてきていた。女性たちは全身を覆い、目だけが見えているが、その眼差しには怒りと嫌悪がにじんでいる。
白いローブを着た男性たちも激怒して、指を指してS国語で何かを大声で叫んでいた。
そして、その一部始終がカメラに収められた。
ライブチャットでは、視聴者たちもその光景に困惑していた。