大塚正臣はちょっとトイレに行くつもりで、トイレのドアを押し開けると、そこには見慣れた小柄な姿があった。
そして今、彼女は目を大きく見開き、別の男性の……そこを見つめていた?
正臣の表情が一瞬で暗くなり、細長い冷たい瞳から血に飢えた殺気と冷気が放たれた!
「何をしている?!」
低い声には、人の心を凍らせるような震えが滲んでいた。
庄司奈々はハッとして、ようやく我に返った!
彼女は小便器の前に立ち、ちょうどジッパーを下ろそうとしていた男性を見て、遅ればせながら悲鳴を上げ、自分の目を手で覆いながら、男性を指さして叫んだ。「あ、あ、あなた……」
これはあまりにも恥ずかしい状況だった!
どうして突然人が入れ替わったの?入ってきたのは正臣じゃなかったの?
彼女は再び振り向いて、ドアの所に立っている正臣を見た。彼の嫌悪感に満ちた瞳と目が合うと、心が引き締まり、慌てて口を開いた。「わ、わたし……彼、彼、彼は……」
奈々はいつも口達者なのに、今はどう説明したらいいのか分からなかった……
そのとき、「クスッ〜」
笑い声が聞こえてきた。「どうやら迷惑を受けていたのは僕の方みたいですね?どうしてそんなに怖がっているんですか?」
その声は優しさの中に、温かみが感じられ、奈々の心はすぐに落ち着いた。
そうだ!
彼女はなぜそんなに緊張しているのだろう?
まず、彼女は何も見ていないし、さっきも何も起きていない。たとえ何かが起きたとしても、正臣は気にするだろうか?
彼女は深呼吸をし、視界の端で常にドアにいる男性を見ながら、その見知らぬ人に笑顔を作って謝った。「あの、すみませんでした!」
「大丈夫ですよ」
「驚かせてしまいませんでしたか?」男性がおしっこをしている時に驚かせると、失禁するかもしれないと聞いたことがある!
「いいえ、驚かせてしまったのは私の方が悪いですよ」
「いえいえ、私が無謀だったんです」
「ははは、でも、私の名前は大塚正臣ではなく……」
二人の会話が続くにつれ、正臣の身から発せられる冷たいオーラはますます濃くなった。
奈々はまだ話を聞き終えないうちに、目の前が暗くなり、手首が強い力で引っ張られるのを感じ、足がもつれそうになりながら、トイレから引きずり出された!
正臣の足取りは速く、彼女は小走りについていくしかなかったが、手首の骨が痛くて折れそうな感じがした。
「正臣、あなた……」
「痛いよ」という四つの言葉がまだ口から出ないうちに、奈々は顔を上げ、彼の漆黑の瞳と目が合った。その瞳には今、とてつもない怒りが抑えられているようで、ちょっと見ただけで奈々は心胆寒からしめを感じた!
正臣は何かの感情が体内で暴れているように感じ、いつもは冷静な人が、今は怒りで額の青筋が浮き出し、目尻まで痙攣し始めていた。
彼はこうして力強く彼女を引っ張って歩き、自分自身もなぜこうするのか分からず、ただ彼女をそのトイレから遠ざけなければならないと思っていた!
二人はすぐに彼らの個室の外に到着し、ドアが開かれると、冷たい殺気のある雰囲気が部屋に広がった。
個室内の全員が一斉にドアの方を向いた。須藤昭彦はまだ笑っていた。「雷斗くん、戻ってきたか?料理が今出てきたところだ、ちょうど食べ始められるぞ……」
その言葉は、正臣の隣に立つ少女を見た途端、ぴたりと止まった!
昭彦はすぐに幽霊でも見たような表情を浮かべ、何か言おうとしたが、人を殺しそうな正臣の目と合うと、すぐに大人しく口を閉じた。
そして個室内からは、賑やかで楽しげな声が押し寄せてきて、ようやく正臣は理性を取り戻した。
彼は振り返り、奈々が信じられないという表情で彼を見ていることに気づいた。
そして彼は突然、自分がまれに見る自制心の喪失状態にあることに気づいた。