葉山楓は断りたかったが、この件は早かれ遅かれ隠し通せるものではなく、いっそ一度戻って話をはっきりさせた方がいいと思った。
そこで、彼女はあっさりと答えた。「分かりました、すぐに向かいます」
電話の向こうの西村樹は少し黙った後、最後には電話を切った。
……
葉山楓が西村家に着いたとき、樹の車はすでに近くに停まっていた。
タクシーから降りる葉山楓を見て、彼はようやく車から出てきたが、耳に当てた電話はまだ切れていなかった。
彼は携帯に向かって言った。「わかったわかった、もう何度も言ったじゃないか……食べたいものがあれば家政婦に作らせろよ、うちの息子に我慢させるなよ……」
葉山楓は車から降りるとすぐにそのような会話を耳にして、まつ毛が少し震えた。
樹を見ても何も言わず、黙って前へと歩き出した。
結局、樹が電話を切ってから彼女を呼び止めた。
「楓」
葉山楓は足を止めたが、振り返りはしなかった。
樹は彼女の傍に来て、だるそうに言った。「爺さんはまだ俺たちが離婚するつもりだということを知らない。刺激しないほうがいい。体の具合が良くないんだ」
葉山楓は軽蔑した顔で言った。「つまり離婚しても、私はあなたと仲の良い夫婦を演じ続けろということ?」
樹のまぶたが軽く動いた。「今はまだ離婚してないだろ?」
葉山楓は冷たい目で彼を睨みつけた。「それは私の気分次第ね」
どうせここまで来たのだから、どうして彼の面子のために自分が我慢しなければならないのか。
結局、最初に自分を裏切ったのは樹なのだ。
葉山楓は彼とこれ以上無駄話をする気はなく、一人で先に中へ入った。
ちょうどそのとき、家政婦が扉を開けに出てきた。
顔を上げると若夫婦を見て、すぐに笑顔になった。「坊ちゃん、奥様、お爺様に会いに来られたんですね」
葉山楓は尋ねた。「爺さんの体調はどうですか?」
葉山楓の言葉が終わると、樹はようやく両手をポケットに入れ、だらしない様子で後に続いた。
家政婦は言った。「今朝は起きたときから血圧が少し高かったのですが、今はずっとよくなりました。かかりつけ医も来て、大丈夫だと言っていましたよ。お爺様は部屋でお二人を待っています。早く行ってあげてください」
葉山楓は頷き、家政婦を通り過ぎて中へ進んだ。
……
西村お爺様の部屋の前で、葉山楓はノックした。