第6章 — 蛇との契約
「これから先、お前はもう自由ではない。」
エンヴェルの声は柔らかく、それでいて古い呪文のように鋭かった。
彼はゆっくりと身をかがめ、顔をメデューサの傷だらけの顔へと近づける。距離はわずか一握り。
「望みを言え。叶えてやる……ただし、一つだけ条件がある。」
視線が交わる。片方は冷たく、片方は怯えている。
「俺と契約を結べ。」
メデューサは震えた。
その体の傷口から黒い血が滲み出る。
彼女の小蛇たちは——胎ではなく傷から生まれ——柵のように咲くジャスミンへ飛び込み、即座に消えていった。
一匹も戻らない。
その体は縮み、薄くなり、ほとんど透明に。
存在がゆっくりと、この世界の境界から消えていく。
「け、契約……結ぶ……」
彼女は途切れ途切れに言い、エンヴェルの前にひれ伏した。
その瞬間——エンヴェルは剣を背中に突き立てた。
憎しみからではない。
契約の刻印として。
刹那、メデューサは消えた。
何も残さず——死よりも深い静寂だけを残して。
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ゼリクスの無意識の中で…
一つの世界が開いた——暗く、赤く、ひび割れた場所。
彼自身の魂の中に巣食う、小さな地獄。
そこで彼は自分自身を見た。
過去の自分。
そして二人の子供。
相撲取りのような巨体の化け物に抱きしめられていた。
だが、その抱擁は——骨を砕くものだった。
骨のきしむ音が、脳内で石の雨のように響く。
ゼリクスは泣き、叫んだ。
だが近づけない。
地獄の大地が彼を呑み込んでいく。
「彼らを自由にしたければ——」
化け物が言う。
「その亡骸を、自分の手で埋めろ。」
さもなければ、その苦しみは永遠に繰り返される。
ゼリクスは気を失った。
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マーヴァは彼の体を抱えて部屋へ運んだ。
一方、エンヴェルはテラスに立ち、黙って夜風をその冷たい肌に受けていた。
遠くで赤いキキがジャスミンの花を裂いていたが、エンヴェルは追い払わない。
ただ静かに見つめていた。
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翌日
エンヴェルは長椅子で眠っていた。
彼のカードは宙に舞い、窓の外へ——浄化に値する魂を探しに行く。
一度のプルフィカツィオーネは、肉体と魂を削る。
十三時間の眠りは、その代償。
別の部屋で、ゼリクスが目を覚ます。息は荒い。
傍らには食事の載った盆を持つマーヴァが立っていた。
「ある場所へ連れて行く。」
マーヴァの声は平坦だった。
「家なら、自分で行ける。」
マーヴァは彼を見据える。
「お前は知っているはずだ……罪なき子供を埋葬するための、聖なる場所を。」
ゼリクスは黙り込む。
「本来なら、お前はあの日死んでいた。」
マーヴァは続けた。
「だが生きている。それは彼の慈悲……そしてあの二人の魂が彼に懇願したから。」
ゼリクスの体が固まる。
「その時の腹の痛み……あれは彼が与えた。警告として。そして慈悲として。」
ゼリクスは皿のパンを見つめる。手が震える。
涙が落ちる。
「……連れて行ってくれ。だが……遺体がどこにあるかは分からない。」
「まだ病院にある。誰も引き取りに来なかった。捨てられたのだ。」
マーヴァは拳を握りしめる。
冷たい怒り。沈黙。
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部屋の前で二人の足が止まる。
そこにエンヴェルが立っていた。
シャツの三つのボタンが外れ、髪は濡れ、首筋から水が床に滴っていた。
奇妙なことに、彼はいつも服を着たまま泳ぐ——水は、清めるための場所であって、洗うための場所ではないのだ。
「務めを果たせ。」
彼は静かに言った。
マーヴァは頷き、一言も発しなかった。
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病院にて…
職員は立ち入りを拒んだ。
「エンヴェル様からの指示です。」
マーヴァは丁寧だが、声には力があった。
「それでも駄目です。」
突然、ある人物が現れた。
引き締まった体格。黒い制服。鋭い眼差し。
——タドリック。
彼はゼリクスを見つめた。
かすかな記憶が蘇る——あの夜のこと。交わらなかった触れ合いの記憶。
「渡さなければ……お前たちは嵐でも起こすつもりか?」
タドリックが嘲るように言った。
「主に伝えろ……患者を完全に治せ、と。中途半端はやめろ!」
そして彼はマーヴァの耳元に囁く。
「エンヴェルは弱い。一人の患者で何時間も眠る。情けない。」
「その言葉を取り消せ!」
ゼリクスが叫んだ。
「彼は強い。」
ゼリクスの声は震えていない。
「俺は見た。体がほとんど壊れても……戦っていた。俺を守るために。」
タドリックは黙った。顎が固くなる。
「……渡せ。」
ついにそう言って背を向けた。
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遺体安置所
二つの小さな棺が開く。
子供たちの亡骸は、自ら棺の中へ。
ゆっくりと。音もなく。
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聖なる埋葬地
ゼリクスは膝をつく。
マーヴァが隣に立つ。
「一つ言っておきたい。」
マーヴァが口を開く。
「本当は言う必要はない……でも考えを変えた。」
ゼリクスが振り向く。
「お前は呪いを宿している。エンヴェルはその体内の存在と契約を結んだ。だからお前は生きている。」
「もし俺が死んだら……呪いは移るのか?」
「ああ。最も近くにいる女へ。」
ゼリクスは長く彼女を見つめた。
「……お前、あいつのこと……好きなんだな。」
マーヴァは答えない。
だが、その瞳が全てを物語っていた。
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プルフェンの廊下にて
そこは、浄化を受けた者だけの特別な場所。
マーヴァは扉を開く。
ゼリクスは彼らを見る——子供、大人、老人。
全員が静かだ。だが安らか。
「治療を受けた人間は……もう普通の世界には戻れない。」
マーヴァが言う。
「彼らの体は清らかすぎて……霊的存在が簡単に取り憑く。」
ゼリクスは黙った。
後悔はどんな傷よりも深く突き刺さる。
その中で——エンヴェルは部屋の隅に座っていた。
目を閉じている。
だが、誰が来たかは分かっていた。
この物語は、美しさと呪いの境界線を描いた章です。
白蛇が纏う冷たい優雅さ、メデューサの瞳が秘める絶望、四本の剣が刻む運命——それらはすべて、エンヴェルという「浄化者」の真実に辿り着くための試練です。
美は時に呪いとなり、呪いは時に美となる。
そして、それを砕けるのは、美に惑わされぬ者だけ。