「ピンポーン!」
言野悠の厚かましい言葉が終わるか終わらないかのうちに、エレベーターのドアがちょうど開いた。
言野梓は拳を握りしめた。
この人は本当に自分の実の妹なのだろうか?あんな人を傷つける言葉を言うだけでなく、許せないようなことまでしている。
梓は本当に平手打ちをかましたい気持ちだったが、ここで悠と口論するのは明らかに非理性的な行為だ。
「梓……」
「悠、いつか必ず、今やったことを後悔する日が来るわ」
梓は言葉を遮り、澄んだ美しい瞳で意味深に悠を見つめ、そう言ってエレベーターを出た。
「梓、何よ、その言い方は?あなたごときが私を脅すつもり?」
悠もすぐ後に続いてエレベーターを出た。
エレベーターを出て初めて気づいたが、ここは18階、キング財団の上層部が集まるフロアだ。
さらによく見ると、梓が頭を上げて辺りを見回している様子が見えた。何かを探しているようだ。
これはどういうことだろう?
梓がなぜキング財団に来たのだろう?
悠は心の中で思いを巡らせ、少し不安になってバッグを握りしめた。
このバッグの中には、梓の部屋から盗み出したジュエリーのデザイン案が入っている。先週、面接に合格して採用されたのも、全て梓の優れたデザイン画のおかげだった。
「言野さんですか?」
悠が心配でそわそわしているとき、少し離れた受付の女性が突然立ち上がり、こちらの方向に微笑みながら声をかけてきた。
梓ももちろん受付嬢の挨拶を聞いており、ちょうど歩み寄ろうとしたとき、悠の姿が彼女の横をさっと通り過ぎ、真っ直ぐに受付へと向かった。
「言野さん、墨田社長がオフィスでお待ちです。ご案内しましょう」
受付嬢が友好的に提案した。
悠は驚きで口をぽかんと開け、一瞬言葉が出なかったが、心臓は興奮して激しく鼓動した。
初出勤の日に墨田若様が呼んでくれるなんて、やっぱり、やっぱり墨田若様は私に一目惚れしたんだわ!
悠は喜びを抑えきれず、振り返って梓に高慢な白い目を向けた。
梓は悠の挑発を無視し、時計を見ると、もう9時になった。
彼女は急いで受付に向かい、ちょうど悠の足を止めた。
「梓、何をするの?墨田若様に会う邪魔をしないで!」
この言葉を聞いて、受付嬢はハッとして足を止め、疑わしげな目で悠を見た。
「言野梓さんではないのですね」
「……」
悠は呆然とし、頭の中で急速に一つの結論に達した。
墨田修が会いたがっている人物は言野梓だったのだ!
梓が墨田若様を知っているだって?
そんなことがあるはずがない!
「申し訳ありません、言野梓さん。こちらの方をあなただと勘違いしてしまいました」
受付嬢は謝った。
「大丈夫です、あなたのせいではありませんから」
梓は友好的に微笑み、顔を上げて表情が硬直している悠を見た。
「勝手に思い込んでいる人がいるだけですから」
「梓、あなたは……」
悠の顔は一気に崩れ落ち、歯ぎしりするほど怒ったが、心の中は疑惑と嫉妬で一杯だ。
受付嬢は緊張した空気を察知し、すぐに前に出て案内した。
「言野さん、もう遅れていますので、早く行きましょう」
「はい、お願いします」
梓は返事をして後に続き、視界の端で悠の青ざめた顔色を見て、少し気分が良くなった。
悠の忌々しい顔を考えると、彼女はふと悠が墨田修という人物に憧れ、夢中になっていることを思い出した。キング財団に入るためにかなりの心血を注いだのも、あの墨田修に近づくためだったのだ。
受付嬢は梓を強化ガラスのドアの前まで案内し、ドアをノックしてから用件を伝えた。
数秒後、梓はオフィスから流れてくる低く魅力的な男性の声を聞いた。「入りたまえ」
この声を聞くほど、梓には聞き覚えがあるように思えた。彼女は二秒ほど足を止めてから、中に入った。
五月の陽光は柔らかく、彼女は白いシャツを着た男性がデスクに座っているのを見た。逆光の角度から、男性の輪郭は高貴で優雅に見えた。
しかし、よく見ると、梓は驚きで目を見開いた。
「あなたは……どうしてあなたなの!」
あの冷たい端正な顔を見て、梓は美しい瞳を大きく見開き、信じられないという様子でその場に立ち尽くした!
昨夜のあの男性が、今日息子を病院に連れて行った男性だったなんて?
こんな偶然もあるのだろうか!
墨田修は瞳を上げ、意味深な視線が梓の体をさりげなく一度なぞった。
成人したばかりに見えるこの女性が、すでに息子がいるとは。
しかし昨夜彼女から受けた印象は、全く子供を産んだようには見えなかった。
だが事実と資料が証明しているように、言野晃という少年は確かに彼女の息子だ。
修は不思議と胸が詰まる思いがした。
昨夜は誰かに仕組まれた罠だったが、まさかこの女性がすでに別の男性と関係を持ち、しかもシングルマザーだったとは。
「座ってくれ」
修は梓を一瞥し、淡々と口を開いた。
梓にはここに長居する気など毛頭なく、早く逃げ出したいだけだ。
彼女は急いでデスクに近づき、冷たい表情の男性を見つめながら、すでに用意していたお金を置いた。
「息子を病院に連れて行ってくれてありがとう、さようなら!」
修は眉間にしわを寄せた。また彼にお金を渡してから、さっと立ち去るつもりか?
急いでオフィスを出ようとする梓の背中を見て、彼の端正な顔は一瞬にして暗雲に覆われた。
梓がオフィスのドアを出ようとしたまさにその時、あの見覚えのある力が再び彼女の足を止めた。
「きゃっ!」
梓は反射的に叫び、男性の圧迫してくる体を感じ、怖くなって必死にもがいた。
「離して!離してよ!この変態!」
「……」
修の表情は一瞬にして恐ろしいほど暗くなった。彼は手を伸ばして梓を掴み、彼女がこれ以上暴れないようにした。
梓は微かな香りが近づいてくるのを嗅ぎ、混乱した瞳を上げると、目の前には修の冷たく引き締まった顔があった。
なんて!
なんてかっこいい人なの!
距離が近すぎたが、梓の最初の反応は、この顔があまりにもイケてると思うことだった。
彼女は澄んだ猫のような目で修を見つめ、しばらく我を忘れてから抵抗することを思い出した。
「早く離して!」
梓は手を上げて修の手を払おうとしたが、残念ながら彼の力には敵わなかった。
「早く離してよ!」
「今になって離せと言えたのか?昨夜はなぜ言わなかった?」
「……」
梓の顔の温度が急上昇した。
昨夜は、昨夜は……
違う。
悠は昨夜の男性は早川社長だと言っていたが、昨夜彼女と一緒にいた男性は、明らかに目の前のこの人だった……
「教えろ、彼らからいくら貰った?その度胸、どこから湧いてきた?」
「……」
男性の声は清らかで魅力的だったが、言っている内容は梓を困惑させた。
「どういう意味?私が誰からお金をもらったって?」
「とぼけるのが好きなようだな?」
「……」
梓は修の言っていることが理解できず、ただ目の前の男を見ているだけ。そして彼が冷たい唇の端をわずかに引き上げ、笑っているような笑っていないような表情を浮かべ、突然また一歩近づいてきた。
「墨田修、これ以上近づかないで!」
梓は頬を赤らめ、勇気を振り絞って彼の瞳を見つめた。
「どうして昨夜は私の部屋にいたのか分からないけど、あなたとあんなことをするつもりはなかったわ。そもそもあなたなんて全然知らないし!」
修は低く笑い、明らかにこの説明を信じていなかった。
「知らない男にも手を出していいのか?」
「安田市立大学の女子学生は、そんなに軽いのか?」
「……」