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0.85% 従順だけど野生的!? 秦野さんに振り回されるクール社長 / Chapter 2: かつて、あんなに愛し合った

Capitolo 2: かつて、あんなに愛し合った

Editore: Pactera-novel

「お金持ちだからって偉そうにしないでくれる?」

秦野詩織はむっとして唇を尖らせた。

だが、孝宏は答えず、ただ余裕の笑みを浮かべるだけ。

結局――彼女は折れた。

「……一晩だけよ」

本当に、お金ってすごい。

彼女の小さな会社は経営難で、今にも潰れそうな状況だった。資金繰りに毎日頭を抱え、死神に会いに行きたい気分になるくらいだ。

「二晩」

彼は軽く言った。

「……わかったわ。でも約束して。変なことはしないで。まして触るなんてもってのほか」

彼女は彼をよく知っている。先に釘を刺しておかないと、必ず何か仕掛けてくる。

なにしろ、この男は昔から手癖が悪い。

……

二十分後。

孝宏の車は雨の降る夜の街を抜け、彼の高級マンションに到着した。

外はすでに暗く、雨が降っていた。

部屋に入ると、詩織はぐるりと見渡す。

――広い。けれど冷え冷えとしている。

彼は彼女をソファに座らせ、服を脱ぎながら疲れたように言った。

「ここでは好きにしていい。どこへ行っても、何を触っても構わない」

「……で、私はどこで寝るの?」

「客間はいくつもある。好きに選べばいい」

その声音は、さっきまでの冷たさが嘘のように柔らかく、どこか懐かしい。

ほんの一瞬――彼がまだ自分を大切に思っているのではないか、

そんな錯覚すら覚えた。

……まさか。

彼にとって自分は「遊び相手」でしかなかったのに。

「どこに行くの?」

背を向ける彼に問いかけると、

孝宏は足を止め、片眉を上げて振り返った。

​「風呂。一緒に来るか?」

「僕は構わないよ」

詩織の頬が一瞬で赤くなる。

この男は、いつだって人を翻弄する。

自分も余計なことを聞いた。

5分後。

ソファに座っていた彼女の耳に、

けたたましい着信音が響いた。

孝宏の携帯だった。

詩織はちらりと見ると、画面には「石田霞(いしだ かすみ)」という名前。

鳴っては止まり、また鳴って――合計で五回。

相当切羽詰まった様子だ。

相手がかなり急いでいるみたい。

詩織は顔を曇らせ、逃げるように客間へ移動した。

理由は自分でも分からない。――ただ、胸の奥が妙にざわついていた。

ちょっとうるさすぎるだけだろ。

30分近く経過して……

客間で、詩織は窓の前に座り、外では雨が降り続けている。

彼女が物思いに沈んでいると、ドアが開いた。

孝宏が入ってきた。

片手にはウイスキーと二つのグラス。

そして彼の姿は――白いバスタオル一枚。濡れた髪から滴る雫が胸筋を伝い落ち、鍛え抜かれた腹筋へと流れていく。

まさに色気があり、挑発的だった。

精力的に見えた。

詩織は顔を上げると、ちょうど彼の視線と目が合った。

思わず視線を逸らす。

この男、本当に馴れ馴れしいんだね!

孝宏は歩み寄り、彼女の隣に座った。機嫌がとてもよさそうだった。

詩織はイライラして、軽く咳をした。

「……服、着てよ」

彼の体からは冷たい湿気と、特有の男性ホルモンの匂いが混ざり、彼女の心を乱した。

絶対わざとだ!

冷静にならないと、彼の誘惑に乗せられてしまう。

「何を今さら。お前、散々見ただろう?」

彼はニヤリと笑い、グラスを傾けた。

「それに、何回も触ったことがあるじゃないか?」

「俺の純潔はとっくにお前に奪われてる」

「……っ!」

言葉を失う詩織。

彼は酒を注ぎ、一杯を差し出した。

「飲む?」

「……何のつもり?」

赤い唇から、挑むような声音。

彼女の瞳はきらきらと揺れ、少し色気を漂わせ、人を惹きつけた。

「酔わせて……お前を奪うため」

磁石のような声色で、彼は平然と言い放つ。

彼は自分の考えを全く隠さず、目の奥には彼女を独占したいという思いが詰まっていた。

詩織は顔を逸らし、窓外に視線を逃がす。

「……さっき電話がかけてきたの」

「そうか?誰から?」

「石田霞って」

「ふん、で?出たのか?」

詩織は彼を見て、「出てない。――誤解されたら困るでしょ」

その瞬間、彼はぐっと腕を伸ばし、彼女の腰を抱き寄せた。

「俺たちの関係に、他人の目なんか関係ないだろ」

彼は頭を下げ、鼻先が触れそうな距離。

心臓が跳ね、詩織は慌てて押し返した。

「……やめて!私たち、もう他人よ」

その瞬間、孝宏の目が暗く沈む。

「他人?――かつて、あれほど近くにいたのに」

あの頃、彼女の目も心も、すべては自分に向いていた。

駄々をこねることもなく、わがままも言わない。

ただひとつ――いつも彼に寄り添って離れようとしなかった。

本当に、可愛くて、従順で。

友人たちも口をそろえて言った。彼を愛していて、絶対に離れるはずがない、と。

まさか、その彼女から別れを切り出されるなんて。

しかも、一切の未練を残さず、あまりに潔く。

詩織は伏し目がちに、感情を隠すように小さく言った。

「……あなたが言ったとおり、それは『かつて』のこと。私たち、もう四年も前に別れたの」

彼らの間には、過去以外、何も残っていなかった。

孝宏は黙り込み、窓の外を眺めながら静かにグラスを傾ける。

しばらくして、低く掠れた声を落とした。

「……俺は探したんだ」

誰も知らない。

彼女が去った三日目の夜、彼は狂ったように東京を駆け回り、彼女を探し続けた。

けれど、何一つ手がかりはなく。

彼女は意図的に彼から姿を隠し、遠ざかっていた。

どうして離れたのか、彼には分からなかった。

ただの拗ねだと、本気で思っていた。

詩織の心臓が、急に大きく跳ねる。

鼻先がつんと熱くなり、爪が食い込むほど拳を握りしめた。

「……探さなくてよかったのに」

彼が自分を探す理由なんて、どこにあるのだろう。

あのとき彼は結婚する気もなく、ただの遊びだったのではないか。

……きっと、彼にとってはまだ「遊び足りなかった」だけ。

孝宏は彼女を見つめ、そっと触れようと手を伸ばす。

だが詩織は立ち上がり、その手を避ける。

瞳には涙がにじみ、胸の奥に後悔が渦巻いた。

――やっぱり今日、彼の家に泊まるなんて、間違いだった。

再び彼に関わってしまったのは、愚かすぎる選択。

頭の中はぐちゃぐちゃで、ただ逃げ出したかった。

「……もう、あなたのお金はいらない。私……ホテルに泊まるわ」

そう告げてドアに手をかける。

だが次の瞬間、手首を強く掴まれた。

孝宏は彼女の腰を片腕で抱き寄せ、逃げ道を塞ぎながら低く言い放つ。

「出て行く?――もう遅い」

「この家に足を踏み入れたからには、出ていく理由なんてない!」

その瞳には、傲慢さと独占欲が溢れていた。

詩織は必死に抵抗する。

「じゃ、じゃあ……あなたが出て行って!私は眠りたいの!」

「……一緒に寝ればいい」

そう言って、彼は彼女を軽々と抱き上げ、そのままベッドに放り投げた。

覆いかぶさる影。

詩織の目が慌てて、「藤井孝宏!やめて!酔った勢いで勝手なことしないで!」

彼の瞳は暗く深まり、声は震えるほど抑制が効いていた。

「……俺には、もっと狂ったことだってできる。試してみるか?」

顔を寄せ、彼女の唇をそっと奪う。

「詩織……四年だ。ずっと、お前が恋しかった。もう拒むな」

――そして、夜が更けていく。

……

翌朝。

目を覚ました詩織の全身を、激しい痛みが襲った。

ひどすぎる……まるで体がばらばらにされたみたいに。

昨夜の彼は、あまりにも容赦がなかった。

枕元を見やれば、すでに空っぽ。

男という生き物は本当に……終われば、さっさとズボンを履いて消えるのだ。


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