藍沢海斗は3Sランク獣人族で、狂化すると人型戦艦と化す。
軍隊が出動しても死に行くだけ。婚約女性だけが安全に彼に近づけるのだ。
しかし須藤杏奈は皇女の身分だが、護衛隊に命じても誰も彼女を戦場に連れて行く勇気がない。
彼女が焦りに焦っていると、ピンク色の知能コンピューターが突然真っ赤な警告を表示した。
【警告:白虎獣夫が命令に違反し、脱獄を試みています!】
【繰り返します!白虎獣夫が脱獄中です!】
そうだ、白銀晃!
彼女は目を輝かせた。
五大獣夫の中で最も傲慢で自由奔放、無法無天な白虎戦神なら、きっと自分を海斗のところへ連れて行ってくれるはず。
杏奈は医療ボックスを手に白虎の寝宮へと急いだ。
【皇女様がいらっしゃいました。全てのレーザー網を直ちに解除してください。】
レーザー網の電子ロックが次々と「カチカチカチ」と音を立てた。
なんということだ、前の杏奈は各獣夫の寝宮にレーザー電気網を設置し、機嫌が悪いと彼らを電撃して遊んでいたのだ。
彼らが彼女を嫌うのも無理はない。結婚証明書は死刑宣告書と一緒に受け取ったようなものだ!
猛虎の紋章が刻まれた寝宮の大扉を押し開けると、アイスドラゴンサングリアの辛辣な情報素が血の匂いと混ざって押し寄せてきた。
天窓から差し込む陽光が玄鉄の檻を照らしていた。
檻の中の男性の肩甲骨には銀白色の電撃チェーンが貫通し、筋肉隆々の背中には暗赤色の電撃傷が広がっていた。
新しい傷が古い傷に重なり、無数の傷跡が目を覆うばかりの惨状だった。
今や左側の電撃チェーンは完全に断裂し、右側もぐらつき、今にも切れそうだった。
記憶が突然彼女を襲った。
この攻撃的なほどにハンサムな銀髪の男性は、かつて前の杏奈に電気首輪をつけられて犬のように散歩させられていた。
反抗したため鉄の檻に閉じ込められ、一週間も電気拷問を受けていたのだ。
「今日はいい天気ですね!」
杏奈は震えながらパスワードを入力し、指先が檻の扉に触れた瞬間、鉄格子は虎の爪によって凹んでしまった。
「ヒート誘導剤か?」
流金獣瞳が彼女の手の医療ボックスを見ると、虎の尾がイライラと床を叩いた。
「そんな手を使うな、俺はお前のような悪辣な雌には興味がない」
「違います、これは海斗を助けるための薬です」
杏奈は医療ボックスを持ち上げ、震える声で言った。
「精神興奮剤をヒート誘導剤と間違えて海斗に注射してしまったんです」
「あと二時間四十分で、彼は精神制御を失い狂化して街を破壊してしまいます」
彼女はマンドラゴラアルカロイドについては言わなかった。そんな物を買ったことが知れれば、皇女であっても法廷に立たされるだろう。
「この忌々しい雌め、戦場に向かう彼に薬を盛るとは!」
晃の黄金獣瞳が針のように細くなり、片手で杏奈の首を掴んで高く持ち上げた。
「わざとじゃないんです」
杏奈は苦しみながら晃の腕を掴んだ。
「海斗を助け出したら、どんなに罵られても構いません」
晃はこの悪辣な雌を絞め殺したい気持ちでいっぱいだった。
だが結婚後、彼らと杏奈は精神リンクで繋がっていた。
彼女を殺せば、五人の獣夫も生きられない。
「祈るんだな、海斗に何も起こらないことを。さもなければ...」
晃は歯を食いしばって手を離し、一蹴りで玄鉄の檻を蹴り壊した。
彼が海斗に深い感情を持っているわけではない。
ただ同じ獣人族として同情するだけだ!
帝国元帥さえもこの悪辣な雌に殺されるとなれば、
自分の末路もどれほど良いものになるだろうか?
杏奈は鼻先を赤くし、涙がまるで糸の切れた真珠のようにこぼれ落ちた。
水に溺れるか首を絞められるか、人生は薬よりも苦いと感じた!
「死んだふりはやめろ、さっさと行くぞ」
晃は檻から出て、地面に伏せている杏奈を不満げに見た。
「痛くて...動けません」
杏奈はかわいそうな顔で顔を上げ、雪のように白い細い首に残る恐ろしい痣を露わにした。
実際、晃はそれほど力を入れていなかったが、彼女の肌が白く痣ができやすいため、ひどく見えただけだった。
晃の呼吸が止まった。
帝国では雌を傷つけることは重罪であり、婚約した雌を傷つけることはさらに重い罪だった。
杏奈が法廷に傷を報告すれば、晃は帝国統帥であっても皮一枚剥がされるだろう。
彼は無表情で右手首をへし折った。「これで十分か?」
「そこまでしなくてもても!」
杏奈は彼の容赦なさに驚いて飛び上がった。
神様よ!
これは恋愛小説ではなく、完全にホラー小説だった。
自分にさえこんなに残酷なのだから、後に彼女の両手を切り落とすのも納得できる。
海斗を助けたら、この獣夫たち、いや、屠殺者たちと離婚しよう。
彼らからできるだけ遠ざかろう。
晃は強力な治療注射を取り出し、彼女の細い腕に刺した。
赤い痣が消え、痛みも消えた。青い薬よりも効き目があった。
「あなたも一本打ってください」
杏奈は恐る恐る言った。
「必要ない」
晃は片手で杏奈を肩に投げ上げ、風のように早く車庫へと向かった。
彼は杏奈を浮遊車の助手席に投げ入れ、車載レーダーを起動して命令した。
「藍沢海斗の戦場位置を検索」
杏奈は小声で「蒼藍海域の第三防衛線です」と教えた。
【蒼藍海域を特定しました。到着予想時間は3時間10分です】
杏奈は焦った。
「だめです、あと2時間30分で海斗が狂化してしまいます」
「しっかり掴まれ!」
晃の金色の瞳に狂気の光が走り、大きな手でスラスターを引いた。
浮遊車は発狂したハスキー犬のように一気に飛び上がった。
強烈な無重力感に杏奈の瞳孔が震え、心臓が早鐘を打ち、思わず叫んだ。
「神様よ、獣帝が見える気がします!」
晃は冷静にスラスターを限界まで押し上げた。「焦るな、これはまだ最高速ではない。最高速なら獣帝が手を振って見えるぞ」
2時間20分後、浮遊車は蒼藍海域の近くに到着した。
見渡す限り、10マイル四方の海域に黒い変異獣がびっしり浮かんでいた。
彼らは獰猛な触手を振り回し、陸地に上がって餌を求めようとしていた。
変異獣は金属とエネルギーを飲み込んで巣を拡大する。
獣人族の強靭な体は変異獣の大好物だ。
彼らは繁殖力が高く、外骨格の装甲を持ち、一度陸地に上がれば想像を絶する結果をもたらすだろう。
海斗の親衛隊は戦闘機を操縦して火力で海岸線を封鎖していた。
しかし指揮官である海斗の銀青色の機甲は姿を見せなかった。
「藍沢海斗の位置を検索」
晃はレーダーに命令した後、助手席を振り向いた。
杏奈は顔色が青白く、髪は乱れ、黒い椅子に硬直して座っていた。
2時間以上もジェットコースターに乗っていたようなもの。
彼女の胃はずっと荒れ狂っていたが、車内で吐かなかっただけマシだった。
今、彼女のピンク色のレースドレスの裾は腰まで巻き上がり、白いパンツと白くてすらりとした美しい脚を露わにしていた。
このような香り立つ艶やかな美景は、このバカ虎の目に入っても、彼の眉をひそめさせるだけだった。
こんなものを着て戦場に行くなど自殺行為だ。
「着替えろ」
晃は黒い戦闘服を取り出し、杏奈に投げた。
杏奈は胃の中の濁った空気を長く吐き出した。
確かにこのプリンセスドレスは邪魔だが、浮遊車の空間は限られており、着替える場所はない。
彼女は少し躊躇した後、思い切ってレースのフリフリドレスを脱いだ。
この悪女は彼らの目にはただの死肉だろう。
裸になったところで彼らの興味をそそることはないだろう。
ましてや彼女はキャミソールとショーツを着けているのだ。
ピンクのレースドレスを脇に投げると、彼女のくびれたボディラインが露わになった。
くびれた腰はひと握りほどで、雪のような肌からはクリームのような甘い香りが漂っていた。
晃の毛むくじゃらの虎の耳が銀髪の間で動き、視線が自然と彼女に向かった。
以前は彼女のクリームの情報素を嗅ぐと吐き気がしたが、今日はなぜか甘く香ばしく感じた。
突然喉が渇き、彼女の全身を舐め回して本当にこんなに甘いのか確かめたい衝動に駆られた。
おかしい!
晃の金色の瞳が縮み、片手で彼女の細い手首を捕まえて椅子に押し付けた。