悪役の憧れの人になってしまった
Autore: 顧夜鑫© WebNovel
Capitolo 1: 悪役脇役が逆襲する
Editore: Inschain-JA
蘭楼古都、王宮。
夜明けの直前、一人の赤子の泣き声が、空を突き抜けるように響き渡った。
「祭司様がおっしゃっていた……これは神の予言だ……」
「この子は不吉のしるしだ！」
「そう、この子だ！未妃様（みき）を死に追いやったのは！」
ただ一人の侍女が毅然と声を張り上げた。「無礼な！未妃様は、そなたらごときが疑ってよいお方ではない！」
嘲りと罵声に囲まれる中、
渡辺水紀（わたなべ みずき）は混乱し、戸惑いながら目を開いた。
彼女が思わず反論しようとしたその時。
口から出たのは言葉ではなく、えんえんと泣き声だった……
その時になって水紀はようやく思い出した。
数日前、自分はあの獣世小説——『兄弟たちは皆絶世』の世界に転生してきたのだと。
しかも、よりにもよっておくるみに包まれた赤子として……
突然、宮殿の扉が大きく開かれた。
目に飛び込んできたのは——
床まで届く銀白の長髪。人の心を奪うような美しさ。
一片の温もりもない紫の瞳と、わずかに閉じた薄い唇。
額に垂れる髪も、彼の眉間に宿る冷ややかさを隠しきれてはいなかった。
距離があったため、
水紀にははっきりとは見えなかった。
だがそれでも、その比類なき容貌は、まるで仙人のようだと分かった。
黒衣の上に厚手の暗黒のマントを纏い、その肌の病的な白さをさらに際立たせていた。
衣の襟や袖口には月光のような模様が刺繍され、気品を漂わせていた。
水紀の頭には、美しい一文が浮かんだ——「翩翩たる濁世の佳公子」。
ほんの一瞬の邂逅だった。
しかし見逃せなかったのは……
彼の紫瞳に潜む、血に飢えたような殺気だった。
口論を続けていた人々は、一斉に沈黙し、
皆がその男に向かって恭しく頭を垂れて「王様」と呼んだ。
——高橋浩（たかはし ゆたか）。蘭楼古都で最も尊ばれる王。
その時の水紀は、少しばかり困惑していた。
作者は大量の筆を費やして浩の冷淡、傲慢、そして残忍を描いていたからだ。
案の定、
彼が水紀に投げかけた視線には、嫌悪と軽蔑が込められていた。
まるで取るに足らぬ塵を見るかのように……
だが侍女は恐れず、大胆にも叱責した。
「王様よ！これらの者たちは是非をわきまえず、まったく良心がございません！」
しかし浩は取り合わなかった。
彼はその皺だらけの小さな存在を嫌悪の目で見つめた。
そして不思議に思った。仮にもおくるみの中の赤子であるはずなのに、その目には明らかに恐れと葛藤が入り混じっているように見えたからだ。
浩の眼差しにわずかな逡巡が過ったが、それもすぐに消えた。
空気は一瞬にして凍りつき、
誰一人として口を開こうとはしなかった。
水紀は、今日ここで命を落とすのではないかとさえ思った。
だが幸いなことに、浩は黙したまま、
ただ袖を翻して立ち去っていった。
人々もそれに従って散っていった後、
先ほどまで勇敢に振る舞っていた侍女は、たちまち涙を流した。
「ううっ、姫様……天に感謝いたします……」
「久美（ひさみ）は信じておりました、未妃様がきっと吉運に守られると！」
水紀も胸を撫で下ろしていた。
この小説の世界に転生してから……
自分を守ってくれたのは久美だけだった。
『兄弟たちは皆絶世』における脇役——渡辺水紀は、姫様だった。
とはいえ、実際には未妃に引き取られた孤児に過ぎなかった。
彼女と浩の間に血の繋がりはなかった。
だが不幸にも、未妃は薄命で、自らの子を産んだその瞬間に薨じてしまった。
そのため水紀は、父の愛を知らぬ養女として、皆から冷遇されていた。
一方で、未妃の実の娘である渡辺琴音（わたなべ ことね）（二姫様）は、周囲の人に気に入られていた。
二人の少女の境遇はまったく異なり、鮮やかな対照を成していた。
原作における脇役——渡辺水紀。
主人公の影に隠れて生き延び、やがて陰険で冷たい性格へと変わっていった。
そして陳腐な設定どおり、彼女は目立たぬ敵役となり、
物語後半では悪役のボスに利用される駒にされ、すぐに死を賜ったのだった。
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