黄ばんで黒ずんだ日記の表紙には、びっしりと名前が書かれていた。
【城戸 洸也】
彼の名前が、ページ全体を埋め尽くしていた。
全身を震わせながら、洸也は次のページをめくった。
この瞬間、まるでパンドラの箱を開けたかのようだった。
何が待ち受けているかを知りながらも、洸也はためらうことなく先に進んだ。
【2014年11月8日】
【今日、洸也が告白してくれた。本当に99通の恋文を集めてきたなんて、すごく嬉しい!でも私は彼を受け入れられない……】
【私は世界でも珍しい病気なの。洸也を巻き込むわけにはいかない。そんな自分勝手なことはできない。彼にはもっと素晴らしい未来があるから。】
【2015年11月19日】
【私が退学して去った後、洸也が飛び降り自殺をして足を一本怪我したって聞いた。痛かったよね?】
【洸也に会いたい、抱きしめたい。でも私はもう3日間も集中治療室で横になっている。】
【2016年12月9日】
【洸也、この冬、小さな犬を拾ったの。全身が暖かい黄色で、コーラって名前をつけようと思う。】
【2023年7月1日】
【洸也、手術がとても痛い!今日はあなたの誕生日。お誕生日おめでとう。】
【2024年11月9日】
【洸也、医者が私の病気は治ったって言ったの。東京へ会いに行くべきかな?】
【2024年11月12日】
【洸也、こっそりあなたを一目見るだけ。もしまだ私のことを覚えていたら、必ず伝えたい。愛してる……丸10年間ずっと。】
【2024年11月13日】
【良い知らせ:洸也はまだ私を覚えていた。悪い知らせ:洸也は私を憎んでいる。】
【2025年10月8日】
【洸也、コーラが死んだ……私の病気が再発した。もうあなたを愛したくない……】
日記はこのページで終わっていた。
洸也の目から涙が落ち、以前の私の涙で濡れた場所と重なった。
黒い文字が、再びにじんだ。
洸也はノートを抱きしめ、ついに大声で泣き出した。
「佐々木 南帆……」
「南帆、帰ってきて……」
何度も私の名前を唱え続け、洸也はまるで取り憑かれたようだった。
力尽きて、もう言葉を発することができなくなっても。
洸也はなお私の名前を呼び続けた。
彼はそのまま城戸家の邸宅の裏庭で三日三晩座り続けた。