耳元で風がヒューヒューと鳴り、山本陽子が目を開けると、木々の間からまぶしい陽光が差し込んでいた。
苦しそうに体を起こすと、全身に鈍い痛みが走り、骨まで響くような感覚があった。
周囲を見回すと、ここは病院でもビジネス街でもなく、鬱蒼とした森林だった。
湿った土の匂いが漂っている。
彼女は覚えていた。確かに柴田天に高層ビルから突き落とされたはずなのに、どうしてこんな場所に?
傷だらけの腕を見下ろすと、大きすぎる服がだぶつき、色あせたジーンズは古びたデザインで、裾は擦り切れていた。
このジーンズは...どう見ても見覚えがあり、16歳の時に初めて手に入れたジーンズのようだった。
それは彼女の人生で初めて新しい服を手に入れた時で、印象深く残っていた。
震える手で自分の顔に触れると、滑らかな肌に硫酸による腐食や潰瘍はなく、痛みも感じなかった。
死んでいない!
生きている!
16歳の時に戻ってきたのだ!
それに気づいて、陽子は突然思い出した。あの年、祖父の指示で田舎の叔父の家から京都に戻されることになり、貪欲な叔母が邪魔をしたことを。
いとこの鈴木喜美を行かせようと、叔父を騙した後、二人で山から彼女を突き落としたのだ。
運よく生き延び、傷だらけで家に戻った彼女を、
叔父が山本家まで送り届け、入れ替わりに行った従姉を連れ戻してくれた。
今ごろ、叔母は急いで従姉を都会に送り込もうとしているに違いない。どうにかして戻らなければ!
前世の彼女はあまりにも情けなかった。
神様がもう一度生きる機会を与えてくれたのなら、今度はしっかり生きよう!
前世で彼女を傷つけた者たちには、一人残らず地獄の味を味わわせてやる!
風に揺れる周囲の木々を見て、風向きは右前方にあることを確認した。風向きに沿って進めば、きっと森を出られるはずだ。
彼女は突然思い出した。かつて「高橋家の嫁」という身分を借りて、コネを使って飛狼部隊で数ヶ月訓練を受けたことを。
16歳の未熟な体では体力は期待できないが、サバイバルスキルは少しも忘れていない。
ヒューヒューという風の音の中に、突然狼の遠吠えが混じった。
本能的な警戒心が彼女の神経を研ぎ澄ませた!
振り返ると、周囲から十数頭の灰黒色の狼が近づいてくるのが見えた。
金色の眼が彼女を凝視し、思わず後ずさりした。
「アゥウゥ...」
狼の遠吠えに我に返り、足が震えた。
目の前にいるのはハスキーなんかじゃない、本物の狼だ!!
しかも一匹ではなく、群れで!
冷や汗をかき、反射的に風上に向かって走り出した。
突然、中央にいた灰白色の狼が襲いかかってきた——
彼女は転がるようにして避けた。
16歳の体はまだ俊敏ではなく、動きも鈍い。
灰白狼が動くと、他の狼も一斉に攻撃を開始した。
木の枝に隠された監視カメラが点滅し、状況が監視室に送られていた。
警報が鳴り響く。
監視画面で狼群と戦う少女を見た警備員は目を見張り、
無線で叫んだ。「森に侵入者がいます!すぐにボスに連絡を!」
間もなく、濃緑色の迷彩服を着た屈強な男たちが整然と二列に並んだ。
入口から、傲然とした態度の男が雪豹を従えて現れた。
長身から放たれる威圧感が空間を支配する。
濃緑色のカジュアルウェアに包まれた鍛え上げられた体、シャープな輪郭の顔にはサングラスがかけられていた。
王者の風格が自然に発せられ、直視できないほどの存在感だった。
警備員たちは背筋を伸ばして立った。「ボス!」
彼の到着で、広い監視室が一気に狭く感じられた。
サングラスの下、佐藤直樹の鋭く深い目が孤高の輝きを放ち、監視画面の狼群と戦う人影に注がれた——
身のこなしが軽快で、動きが素早い!
よく見ると……まだ青二才の小娘だった。