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異世界転生したら魔王が喧嘩を打ってきたのでフルボッコにしました 異世界転生したら魔王が喧嘩を打ってきたのでフルボッコにしました original

異世界転生したら魔王が喧嘩を打ってきたのでフルボッコにしました

Autore: 吟色_

© WebNovel

Capitolo 1: 魔王、フルボッコ

──拳が、めり込んだ。

ブンッ、と空気を裂いた一撃が放たれ、魔王の顔面を真正面からぶち抜いた。

「ぶえっ……!? な、なにっ……!? えっ、ちょ、まっ、まってって!? まだセリフの途中──!!」

間抜けな断末魔を残し、漆黒のローブをまとった大男が盛大に吹っ飛ぶ。

仰向けに倒れたまま、魔王は白目を剥いてピクピク震えている。

「──魔、魔王様?」

「い、今の見たか……?」

「魔王様……顎外れてる……?」

「こ、声……裏返ってたぞ……?」

トカゲ兵士が、ぷるぷる震えながら呟く。

その空気をぶち破るように、地面にめり込んだ魔王の顔を見下ろし──

赤髪を逆立て、学ランのボタンを外した不良の少年が仁王立ちしていた。

「知るか。先に殺す言うたん、お前やろがい」

地面にずり落ちた魔王の顔面に、もう一発、拳志の蹴りが入った。

「殺す言うてみぃ。その時点で殴られて終わりや。関西人舐めんなや」

その言葉を最後に、世界は静寂に包まれた。

けどな──こんな状況に至るまでに、ちゃんと理由がある。

……その直前まで、俺は──

「うそやろ……俺、死ぬんか?」

バイクはもう、鉄くずに潰れとった。

街路樹にぶつかった拍子に空中に放り出されて、頭からアスファルトに叩きつけられた。

視界の端には、赤信号無視のトラック。運転手が悲鳴を上げて飛び出してきとるのが見えた。

血の味が、口ん中いっぱいに広がって。

「……まだ、やっとらんこと……ようけあるのに……」

真堂拳志、十七歳。関西生まれの喧嘩屋。

筋を通すために、拳で生きてきた。

「真堂の名前知らんやつは、関西の道歩けん」

そう言われとったくらいや。

でもな、暴力だけが全てやない。

筋を通す。義理は返す。弱いもんは守る。強いだけのやつは許さん。

俺は、そんなんがカッコええって、ずっと信じとった。

(こんな形で終わるんか、俺の人生……?)

そう心の中で呟き、そして、

(美羽……すまんな……)

そう心の奥で小さく謝った瞬間、何かが弾けるように視界が白に染まった。

痛みも血の匂いも、一瞬で遠ざかる。

ただ、抗えない光が全てを呑み込み──

目の前が、真っ白になった。

「うおおおおおお!?なんや!?

ちょ、ここどこや!?なんで空中やねん!!」

気づけば、空を落ちとった。

目の前に広がるのは、見たこともない世界。

石造りの遺跡。赤黒い空。魔物みたいな兵士。

「ちょっ、ヤバいってこれ死んでまう──」

ドゴォッ!!

拳志は勢いそのままに、頭から地面へ突っ込んだ。

遺跡の床にクレーターめいたヒビが走る。

「ぐぇっ……!!……いった……死ぬか思た……!」

頭を抱えながら顔を上げた、その正面に──

「……貴様、何者だ」

──魔王がいた

でかい。魔力みたいなんも感じる。

黒いローブ。角。圧倒的な威圧感。

って、なんで俺の落下地点、コイツの目の前やねん。

「勇者か? いや、違うな……魔力の気配が歪すぎる。異端か……?」

魔王らしきその男が、冷たい目でワイを見下ろす。

「気に入らん。殺すか──」

その声と同時に、空気が凍りついた。

兵たちが一斉に膝を折る。魔王の放つ圧だけで、遺跡全体が軋む。

背筋を折られるような威圧感に、空気すら重く沈んでいく──が。

その瞬間、俺の右拳が、勝手に動いとった。

そして、今に至る。

魔王は、顔を腫らして地べたに沈んどる。

周りの兵は、誰一人として動こうとせん。

「ま、魔王様が……一撃で……?」

「な、何者だあいつ……本当に人間か……?」

動揺が、じわじわと広がっていく。

「ば、馬鹿な……我は……この世界を統べる者……混沌の王──」

「うっさい、黙っとれ」

ドゴォッ!!

拳志のかかとが、魔王の腹にめり込む。

一瞬、空気が止まった。

骸骨兵士がポツリと呟いた。

「……マジで黙った……」

魔王のローブの中から、かすかに「ヒュゴ……」という情けない呼吸音が漏れていた。

恐怖と困惑が、魔王軍全体を静かに包んでいく。

拳志は、ひとつ肩を鳴らして

「よし。俺、生きとるな。世界変わっとるけど、問題あれへん」

ゆっくりと歩き出す。

その背中を、誰も追えなかった。

こうして、異世界ヴェルザ=ルーンに転生してきた真堂拳志は、世界に喧嘩を売った。

神も魔王も知らん。

筋の通らん理不尽だけは、絶対に許さへん。

拳志がそう呟き、歩き出したその時──

その姿を、遠く離れた塔から見つめる者たちがいた。

仮面をつけた神官たちが、玉座を囲むように七人並んでいた。

白い仮面は光を反射せず、奥の瞳すら見せない。

息遣い一つ漏れず、ただ冷たい沈黙が漂う。

中央の玉座には、影の王のように鎮座する最高位。

重苦しい会議室の空気を裂くように、記録の光が映し出す。

――魔王を殴り飛ばす拳志の姿。

「予定外の因子が出現しました。転生にも加護にも該当せず……」

「魔王を一撃……?あれは人間か……?」

ざわめきが広がる会議室。

ただ一人。

その輪から少し離れた場所に立つ黒衣の青年が、映し出された拳志を鋭く見据えた。

「……来たか。拳志」

低く呟いた声が、重苦しい静寂を裂いた。

――異物はまだ知らない。

この世界の理すらも、壊す存在であることを。


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