詩織は最後の一杯のスープを飲み干し、二人を一瞥して言った。「読めるよ」
誰を見くびってるんだ?
彼女は六歳の時に乱世に巻き込まれ、まともな学校教育は受けられなかったが、それでも本は読んできたのだ。
当時、難民キャンプでは一人の老いた教授が彼女と数人の孤児たちに初歩的な教育を施してくれていた。
その教授はもともと医科大学の博士課程の指導教員で、知識が豊富で医術にも長けていた。
彼女はその教授から数年間、真剣に学んだが、後にその教授は彼女たちを守るために殺されてしまった。
残されたのは煉瓦のように分厚い医学書の入った箱だけだった。
乱世の中で生き延びることさえ困難な時代に、誰が読書や学習に気を配れるだろうか?
しかし彼女はずっとその箱の本を持ち歩いていた。
なぜならその老教授が生前にこう言っていたからだ。「将来、世界がどんな姿になろうとも、学ぶことを止めないでほしい。学びこそが文明を継続させる唯一の方法だ。今はわからないかもしれないが、大人になってチンピラになるにしても、最も教養のある者であってほしい」
その箱の本のおかげで、彼女は乱世の中で急速に足場を固め、乱世三大チン……いや、戦神の一人となることができたのだ。
***
詩織が読み書きできるという件について、彩音と知恵は深く疑っていた。
二人はすぐにインテリブレインで子供向けの入門読本を見つけ出し、詩織に判読させた。
詩織がすべての内容を間違いなく読み終えるまで、二人は彼女を解放しなかった。
詩織はやや屈辱を感じていた。乱世の第一女帝、千葉拠点のボスであり、数万の部下を率いる詩織様が、今は我慢して子供向けの本を読まなければならないとは。
人の飯を食う者は、人の言うことを聞くしかないのだ。
この二人の娘は今の彼女の「食料」なのだ。誰を敵に回しても「食料」を敵に回すわけにはいかない。
「辞書をくれ」
現在の文字と乱世時代の文字は若干異なっており、子供向け読本に読み方が書かれていなければ、彼女は必ずしも正しく読めなかっただろう。
文盲と思われないためにも、勉強は止められなかった。
「詩織さん、明日は朝6時に起きて、仕事を探しに行きましょう」
寝る前、彩音はあくびをする詩織に念を押した。
詩織は手を軽く振って、この心配性の「お母さん」に適当に返事をした。
やっと眠ることができる。
乱世では眠るどころか、ほんの少し目を閉じて休むだけでも、近くに敵が潜んでいないか心配しなければならなかった。
詩織はすぐにあの大きくてふかふかのベッドに飛び乗り、満足そうに枕を抱いて目を閉じた。
***
隣の部屋。
知恵のインテリブレインが突然鳴った。
フェイスパックを塗っていた知恵は何気なく音声通話を開くと、洋介の声が聞こえてきた。
「白石、俺も君と同じクラスに入ることにしたよ」
「本当に?中学部に入らないの?」知恵はやや驚いた。洋介の知能なら高校部へ飛び級するのは余裕だったはずだが、彼はあえて転校して中学部に入ったのに、今になって高校部に来るというのか?
洋介は不機嫌そうに「うん」と答え、目の前の画面を見つめていた。そこには簡潔な情報が数行書かれていた。
氏名:姫野詩織
性別:女
年齢:20歳
DNA照合結果:該当者なし。
……
彼が照合したDNAデータベースは国際同盟の人口データベースだった。たとえ最高レベルの機密権限を持つ異能者であっても、少なくとも「アクセス権限なし」という結果は出るはずだった。
まさか「該当者なし」という結果が出るとは。
これは詩織が生まれてから正常な社会に現れていないことを意味した。このような状況は、両親が特殊な身分で仇から逃れているか、あるいは彼女が意図的に山奥に捨てられて育ったかのどちらかだろう。
どちらにせよ、20年間も正常な社会に現れずにいられたというのも、ある種の才能だった。
そんな人物を彼らの前に招き寄せるとは、背後の人物の「深慮遠謀」が見えた。
洋介の目は光を放っていた。彼はこのような相手に長い間出会っていなかった。
姫野詩織の背後にいる人物が誰なのか、ぜひ見てみたいものだった。
***
翌日。
夜がようやく明け始めた頃、詩織は体内時計で自然に目を覚ましたが、このベッドはあまりにも柔らかすぎて、一生寝ていられそうだった。
隣の「お母さん」はすでに起きて、階下で料理を始めていた。
この「お母さん」のエネルギーには本当に感心する。昨晩は夜中までブツブツ言っていたのに、今でもこんなに早く起きて料理ができるなんて、その勤勉さは間違いなく一級品だ。
ふむ……この肉饅の具の香りがたまらない…
詩織の腹が思わずグゥと鳴り、柔らかいベッドと食べ物の間で、彼女は何のためらいもなく後者を選んだ。
湯気の立つ肉饅が出来上がった時、台所のドアに斜めにもたれかかっていた影に彩音は驚き、肉饅を落としそうになった。
「おはよう。食べられる?」
「あ……おはよう……熱いから気をつけて」彩音が振り返ると、手に持っていた皿は空っぽになっていた。詩織はすでに両手に二つずつ、口にもう一つの肉饅をくわえ、あっという間に一つを平らげていた。
「うまい」詩織は惜しみなく褒め、口も休めなかった。
一方、彩音は無表情で肉饅を作り続ける機械と化していた。
心の中では憤っていた:絶対に仕事させなきゃ!!!
この食欲じゃ誰が養えるというの?
ようやく彩音が怒り出しそうになった頃、詩織は名残惜しそうに台所を離れた。
彩音は急いで白石知恵の朝食を作り終え、親切にメモを残してから、詩織を連れて出かけた。
「詩織さん、あなたは今、身分証明書も何もない状態だから。まともな会社は無理だし、敷居が低くて危険の少ない仕事を探さないといけないわね。考えてみたんだけど、エキストラはどう?一日の稼ぎは多くないけど、食事はついてるわ」
エキストラは彩音が今、詩織のために見つけられる唯一の仕事だったが、それでもエキストラには全く敷居がないわけではない。
良いエキストラは文武両道、セリフ回しと演技力はもちろん申し分ない。多くの優れた俳優が草の根から這い上がってきたのも無理はない。
しかし詩織のような人がエキストラになったら、せいぜい人数を合わせるだけの、演技力不要の死体や通行人A程度だろう。
彩音は自分の連絡先リストをめくりながら、とても悩んでいた。
早朝の虎ノ門マンションにはほとんど人がいなかった。彩音は新品のジャージ姿の詩織を連れて、東門から出た。
東門の警備員は昨日詩織を見かけており、無意識に彼女を何度か見てから、彩音に言った。「彼の身分証明書はいつ用意するんだ?早く用意してもらわないと、マンションに入れるわけにはいかないよ」
警備員はまだ詩織を男と思っており、口調はやや厳しかった。
若くて健康なのに、ちゃんと働かずに、わざわざホームレスになって、しかもここまできて物乞いをするなんて。それがまだ成功するなんて。
高級マンションに住み、新しいアイデンティティまで手に入れるなんて、腹が立つじゃないか?
警備員は詩織に良い顔をせず、まともに見ようともしなかった。
彩音は何度も約束した。「賀来叔父さんがすぐに持ってきますから」
白石知恵の側近である賀来叔父さんは仕事が頼りになる。彼女が来た時も、半日でそのすべての身分情報をマンションの警備システムに登録してくれた。
警備員は手を振り、もう彼女たちを見ずに頭を下げた。
彩音は詩織の腕を引いて急いで立ち去った。
虎ノ門マンションの東門からバス停まで歩いて十数分かかる。
彩音は詩織に自分がようやく慣れた周辺環境について説明しながら、いくつかの注意点を促した。「虎ノ門マンションの住人は裕福か身分の高い人ばかり。外出するときは目立たないようにして、無用なトラブルは避けましょう」
詩織は両手をポケットに入れ、周囲の環境を眺めながら淡々と言った。「それも小林が言ったこと?」
彩音は足を止め、振り返って彼女を見た。探るように「どうしてそれを知ってるの?」
「そんなの難しい推理じゃないでしょ?」
彩音の表情は複雑だった。詩織姉さんは本当に山の中で育った人なのだろうか?
「小林は普通の子供じゃない。こういうことを言うのは当然だろうね」詩織は彼女を一瞥した。
彩音は安堵のため息をつき、照れ笑いを浮かべた。「知恵と彼は引っ越してきたばかりで、目立ちすぎると悪い人に目をつけられるから」
詩織は彼女を一瞥して、顔を別の方向に向けた。
ふん……お人好しがどれだけ目立たないようにしても、狙っている者は彼女を目立たせるだろうね。