Capitolo 8: 第8話：真実の代償

第8話：真実の代償

蝶子の看病を終えた暁が別荘に足を向けた時、既に夜は更けていた。

玄関で迎えた執事の柏木が、灰色のギフトボックスを差し出してきた。

「お帰りなさいませ、暁様。刹那様が昨日お帰りになった際、これをお渡しするようにと」

暁は眉をひそめた。

「また刹那が何か騒ぎを起こしたのか」

箱を開けると、中から婚約指輪が現れた。ダイヤモンドが照明の光を受けて冷たく輝いている。

暁は呆然とその指輪を見つめた。なぜ刹那が指輪を返したのか、理解できずにいる。

「それと」柏木が続けた。「書斎にお手紙も残されております」

暁は急いで書斎へ向かった。机の上に置かれた封筒には「決別」という文字が書かれている。

手紙を開いた瞬間、暁の顔から血の気が引いた。

『暁へ

病院での響さんとの会話、全て聞かせていただきました。

龍胆家との縁談の件も、蝶子さんのお子様の件も。

八年間の嘘、お疲れ様でした。

もう二度とお会いすることはないでしょう。

お幸せに。

氷室刹那』

暁の手が震えた。

響との会話を聞かれていた。全てが露見していたのだ。

前例のないパニックが暁を襲った。心臓が激しく鼓動し、冷や汗が背中を流れ落ちる。

その時、机の上の写真に目が留まった。

レーシングスーツを着た少女が写っている。ヘルメットを脱いだその顔は——

「刹那？」

暁は写真を手に取った。そこには確かに刹那の顔があった。若い頃の、まだあどけなさの残る刹那。

写真の裏には新聞の切り抜きが貼られている。

『謎の救助者「ゼロ」、海難事故で青年を救助』

暁の世界が音を立てて崩れ落ちた。

刹那が「ゼロ」だった。

自分が十二年間探し続けていた命の恩人が、八年間そばにいた恋人だった。

暁は震える手でスマートフォンを取り出し、刹那の番号にかけた。

「現在使われておりません」

アナウンスが冷たく響く。SNSアカウントも削除されていた。

暁は刹那の親友である莉緒の番号を探し出し、電話をかけた。

一度目、二度目は切られた。三度目でようやく繋がった。

「何の用？」

莉緒の声は氷のように冷たかった。

「刹那は、どこにいる？」

「知らない」

「頼む、教えてくれ。刹那と話がしたいんだ」

莉緒の冷笑が電話越しに聞こえてきた。