やばい、足をくじいた!
星奈はそっとズボン下を靴下の中から引っ張り出した。露出した肌は月光のように白く、まるで最も清らかな雪のようだった。
叔母はいつも言っていた。シャツの裾はズボンに入れ、ズボン下は靴下に入れる。春の寒さに対する最低限の礼儀だ、と。
鎬京の季節は短く、四季をざっくり分けると冬と夏しかはっきりしていない。五月の初めとはいえ、制服だけでは身震いするほど寒いのだ。
叔母は自分のためを思ってのこと。なのに星奈は何も考えずに渡辺優子の言葉を信じ、学校でこっそり脱いでみせた――少しでも痩せて、少しでも美しく見えるように。
そのせいで、星奈はリウマチ性関節炎にかかり、あの夜に膝と足首を粉砕骨折した影響もあり、踊ることはもう二度とできなかった。夜な夜な痛みで眠れない日も幾度となくあった。
叔母のことを思い、家に帰りたい気持ちが抑えきれなくなる。星奈は赤く腫れた足首をそっと揉みながら、心の中で祈った。
――お願い、骨折してませんように……早く治って……
すると――月光のように白い光が、星奈の願いに呼応するかのように足首を包み込んだ。清涼感が走り、パンパンに腫れた足首が目に見えて治っていく。
痛くない……?
星奈は飛び上がるほど驚き、しばらく呆然とした後、恐る恐る足首を動かしてみる。
――本当に、痛くない!
なんてことだ!
前世、あんなに悲惨な人生を送ったから、神様がリベンジチートをくれたのだろうか――?
驚きと喜びで胸がいっぱいになった星奈は、もう一方の傷口も確認してみようと手を伸ばす。
しかし……反応はなし。
彼女はさっきの白い光を思い出し、心を無にして傷口を見つめながら祈った。
――治れ……
すると再び白光が現れた。星奈が喜びに浸る間もなく、頭に針で刺されたような痛みが走り、光は消えてしまった。
星奈は諦めきれず、もう一度試してみる。だが頭の痛みに耐えきれず、思わず唸ってしまった。
――もう無理、先に家に帰ろう。
帰宅が遅れたら、叔母が心配するに決まっている。
立ち上がると、二人のぐったりした死体を見やり、星奈の瞳に鋭い寒光が走る。
――私を殺そうだって?ふん、先に死ぬのはどっちだ!
彼ら、さっきは二百円のバイトだなんて言っていたっけ……
その瞬間、星奈の頭にひらめきが。数日前、優子が誕生日プレゼントを買うためにお金を借りたいと言っていたことを思い出した。自分の小遣いでは足りなかったから、星奈は感動して、手持ちの百円を全部渡したのだ。
まさか、あの「親友」は借りた金で、チンピラを雇って自分を襲わせるなんて……
星奈はカバンから練習帳を取り出し、破いて二つに分け、そのうち金髪男の死体の下に押し込んだ。表紙には「渡辺優子」の文字。冷酷な笑みが彼女の唇に浮かぶ。
――華航マンション南苑。
家まで全力で駆け戻る。息が切れる。首から下げた鍵で防犯ドアを開けると、なぜか胸がざわつく。
前世の記憶がよみがえり、胸の奥が痛む。
家族が物音に気付いたのか、木の扉が開き――
「星奈、お帰り」
開けたのは叔母、京極千秋(きょうごく ちあき)。
まだ家族は平穏で、四十代前半。夫に愛され、子どもたちも素直で、幸福に満ちた顔をしている。温かく、優しく、賢母そのものだった。
――私だけが、いつも叔母を心配させる。
「ぼーっとしてないで、早く入って!」
星奈は声を出せず、京極千秋は少し戸惑いながらも、十数年来、血の繋がり以上に愛してきた姪に向かって優しく手を差し伸べる。しかし星奈はいつも一歩引いて、素直になれなかった。
「叔母さま……」
十年以上、愛され続けてきた叔母の存在を目の当たりにし、星奈は我慢できず、胸に飛び込み、声をあげて泣き崩れた。
千秋は背中をさすり、心配そうに尋ねる。「どうしたの?学校で嫌なことでもあったの?」
星奈は今までにないほど深く泣き、リビングでテレビを見ていた三人は慌てて立ち上がり、千秋に目で問いかける。
叔母は首を振って、事情は分からないと伝え、泣きじゃくる星奈を抱きしめて部屋へ戻る。
馴染みの部屋、叔母の温もり、ほんのり石鹸の香り――ようやく、自分が本当に生き返ったことを実感できた。
前世の後悔、屈辱、恐怖が一気に押し寄せ、涙は堰を切った水のように止まらない。
泣き続けて、もう三十分が過ぎた……
そのとき、リビングに電話の呼び鈴が鳴る。
いとこの斎藤暁月(さいとう あかづき)が小さな頭をのぞかせて言った。「星奈ちゃん、親友の渡辺優子さんから電話よ!」