章 3: 第3話：裏切りの代償
第3話：裏切りの代償
「何を言っている」
零の声が低く響いた。詩月は骸の視線を感じて身を縮める。
「簡単な話だ。その美人さんを一晩俺に貸してくれれば、ブレスレットは譲ってやる。どうせただの替え玉だろう？」
骸の言葉に、詩月の心臓が跳ねた。替え玉だということがバレている。
「断る」
零の即答に、詩月は安堵した。しかし骸は諦めなかった。
「そうか。なら仕方ない。俺の知り合いのソープ嬢達に送ってやるよ。きっと可愛がってくれるだろうな」
詩月の顔が青ざめる。骸の脅迫に、零の表情が微かに揺らいだ。
「零様」
詩月は震え声で呼びかけた。零が自分を見捨てるはずはない。そう信じようとしたが、怜華のことが絡むと彼が豹変することを思い出し、不安が胸を締め付ける。
零は長い沈黙の後、口を開いた。
「たかが替え玉ごとき、好きにすればいいさ」
詩月の世界が崩れ落ちた。
零の冷たい手が詩月の背中を押す。物理的な力で、彼女は骸の方へと送り込まれた。
「零様、お願いします」
詩月の必死の懇願も、零の耳には届かない。
「行け」
骸が詩月の腕を掴む。その瞬間、詩月は理解した。自分は完全に見捨てられたのだと。
オークション会場の上階にあるホテルの一室。骸は詩月をベッドに押し倒した。
「零の奴の心には怜華しかいないんだよ。怜華が戻ってきたら、お前はすぐに奴に捨てられる」
骸の嘲笑が部屋に響く。詩月は涙を流しながらも、泣き声を上げまいと歯を食いしばった。
「抵抗するなよ。どうせお前は道具なんだから」
骸が詩月の服に手をかけた時、詩月は机の上の花瓶を目に留めた。骸が一瞬視線を外した隙を狙い、詩月は花瓶を掴んで彼の後頭部を思い切り殴りつけた。
鈍い音と共に、骸が床に崩れ落ちる。
詩月は血まみれの部屋から逃げ出し、エレベーターで1階へ向かった。ビルの入り口で零のマイバッハを発見し、最後の望みをかけて車に駆け寄る。
「零様、お願いします。助けて」
車のウィンドウを隔てて、彼から聞こえたのは冷たい言葉だけだった。
「自分でなんとかしろ」
詩月は絶望した。
裸足でガラスの破片が刺さり、地面に真っ赤な足跡をつけながらも、詩月は大通りへ向かって走り続けた。
詩月が去った後、零のアシスタントが口を開いた。
「ボディガードの配置は完了していました」
零は無言で頷き、ホテルの部屋へ向かった。床に広がる血痕を見て、表情を硬くする。
「骸を朽木家の当主の元へ送り届けろ。今日の件も全て報告しろ」
30分後、零の携帯電話が鳴った。
「詩月様がお帰りになりました。お部屋に閉じこもって、泣いていらっしゃいます」
執事の報告に、零は一瞬固まった。
「うん」
短い返事の後、電話を切る。アシスタントは零の動揺を見抜いていたが、何も言わなかった。
しかし零は知らない。詩月の心に刻まれた傷が、彼らの関係を根底から変えてしまうことを――
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