あの雨の夜、私は早退して帰宅した
作者: ManyWriters© WebNovel
章 1: 第1章
あの雨の夜、私は早めに仕事を切り上げて帰宅した。
鍵を鍵穴に差し込んだその瞬間、寝室から声が聞こえてきた。
女の抑えた喘ぎ声、男の荒い息遣い。
私の手は宙に固まった。
篠原晴香は今夜残業で帰ってこないと言っていた。
なのに今、寝室には明らかに二人いる。
私は足音を忍ばせてドアを開けると、リビングは散らかり放題だった。
女物のハイヒールが玄関に無造作に投げ捨てられ、男物の革靴がソファの横に斜めに置かれていた。
テーブルの上には二つのワイングラス、中には暗赤色の液体が残っていた。
寝室のドアは少し開いていて、中からの声がますます鮮明に聞こえてきた。
「晴香、お前は彼より全然いいよ...」
この声は、あまりにも聞き慣れていた。
松井浩明。幼い頃からの親友であり、同僚であり、最も信頼していた友人だ。
「彼のことは忘れて、私たちで楽しみましょ...」
晴香の声は、聞き覚えのないほど色っぽかった。
彼女がこんな調子で私に話しかけてきたことなど一度もなかった。
結婚して3年、彼女は私に対していつも事務的だった。
冷淡で、よそよそしく、まるで何かの義務を果たしているかのようだった。
なのに今、彼女は別の男の腕の中で、蜜のように甘ったるい声を出している。
————————
1
私は寝室のドアを開けた。
ベッドの上の二人は一瞬で固まった。
晴香は悲鳴を上げ、慌てて布団で体を隠した。
浩明は体を起こして座り、顔には困惑と後ろめたさが浮かんでいた。
「剛、俺の説明を聞いてくれ...」
「何を説明するつもりだ？」
私の声は意外なほど冷静で、自分でも驚くほどだった。
普通なら、怒鳴ったり、取り乱したり、刃物を持ち出したりしてもおかしくない。
でも私はただそこに立ち、冷ややかに二人を見つめるだけだった。
「剛、俺たちは...」
「私たち何もしてないわ！」
晴香は浩明の言葉を遮り、ガラスを爪で引っ掻くような鋭い声で言った。
私は笑った。
涙が出るほど笑った。
「何もしてない？じゃあ二人して裸でベッドの上で仕事の打ち合わせでもしてたのか？」
晴香の顔は一瞬で真っ赤になった。
浩明はベッドから飛び降り、慌ただしく服を着始めた。
「剛、兄弟、これは...」
「兄弟？」
私はこの二文字を繰り返した。一つ一つの音節に冷気を帯びさせて。
「松井浩明、俺たちは二十年の付き合いだ。お前を今後も兄弟と呼べると思うか？」
彼は固まり、手にしていたシャツが床に落ちた。
私は晴香の方を向いた。
五年間愛し、三年間連れ添ったこの女を。
彼女は布団の中に縮こまり、目をそらして私を見ようとしなかった。
「篠原晴香、聞くが、これは何度目だ？」
「何が何度目？私たち何もしてないって言ったでしょ！」
まだ言い逃れをしている。
私は化粧台に歩み寄り、一番上の引き出しを開けた。
中には避妊具の箱があり、既に半分以上使われていた。
私は箱を取り出し、彼女に向かって振ってみせた。
「これも仕事道具か？」
晴香の顔が完全に青ざめた。
浩明はすでに服を着終え、逃げ出そうとしていた。
「そこに立て！」
私は彼を呼び止めた。
「松井浩明、このまま行くつもりか？」
「剛、俺たちは...」
「もう何者でもない」
私は幼い頃からの幼なじみを見つめた。
子供の頃、一緒に学校に通い、一緒に喧嘩し、一緒に先生に叱られた。
大学では同室で、卒業後は私の推薦で同じ会社に入った。
私は彼を実の兄弟のように思っていたのに、彼は私の家のベッドで妻と寝ていた。
「続けろ。俺が出ていく」
私は背を向けて歩き出した。
「剛！」
晴香がベッドから飛び出し、裸のまま追いかけてきて私の腕を掴んだ。
私は彼女の手を振り払った。
「触るな、汚らわしい」
この言葉は彼女の頬を平手打ちしたかのようだった。
彼女はそこに立ち尽くし、瞬く間に目が赤くなった。
「桐山剛、あなたに私を責める資格があるの？」
「あなたは仕事以外に何ができるの？毎日残業して稼ぐことしか知らないじゃない！」
「いつ私のことを気にかけてくれた？いつ私と時間を過ごしてくれた？」
「浩明は少なくとも私を喜ばせてくれるし、プレゼントもくれる、映画にも連れて行ってくれる！」
「あなたは？お金以外に私に何をくれるの？」
私は足を止め、振り返って彼女を見た。
全裸で私の前に立ち、私を責めるこの女を。
毎月生活費を振り込み、ブランドバッグを買い与え、遊び歩くための金を出してやったこの女を。
私の妻だと思っていたこの女を。
「篠原晴香、お前の言う通りだ」
「俺はお前に金以外何も与えられなかった」
「だが今日からは、金すらもう渡さない」
私は振り返ることなく家を出た。
雨はまだ降り続け、顔にかかると冷たく骨身に染みた。
私は団地の入り口に立ち、どこへ行けばいいのか分からなかった。
三年間住んでいたこの場所が、突然見知らぬ場所のように感じられた。
家だと思っていた場所は、実は私一人だけの家だったのだ。
携帯が鳴った。浩明からだった。
切った。
また鳴った。やはり彼からだった。
電源を切った。
雨水が髪から目に滴り落ち、塩辛かった。涙のように。
だが私は泣いていなかった。
ただとても疲れていた。疲れていた。
地面に横たわって二度と起き上がりたくないほどに。
でもそうはいかない。
私にはまだやることがたくさんあった。
彼らに教えてやらねばならない、裏切りの代償を。
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