章 4: あの方が和真だ

編集者: Pactera-novel

愛子は冷たい目を向け、傍らでまるで悪気のなさそうな顔をした詩織を見た。「今、彼に食べさせたのは何？」

「ブドウよ」

「一粒剥いてくれない？」

詩織の表情が凍りついた。思わず初を見る。

相手は目すら上げなかった。「愛子のために一粒剥いてあげて。手が空いてないんだ」

彼は確かに忙しそうだった。両手で愛子のこめかみを押さえながら、彼女の耳元で囁いていた。愛子は自然と身を寄せ、唇を曲げて微笑んだ。

この光景を見た詩織は胸が痛んだ。

昨夜あんなに愛子を刺激したのに、彼女はまるで何事もなかったかのように振る舞っている！

詩織はとても不本意そうに一粒のブドウを剥き、愛子に差し出した。

もう一度差し出そうとすると、愛子は顔を横に向けて避けた。

「もう食べないの？」詩織は手を少し上げて言った。「私が直接剥いたのに」

「ちょっと味見するだけでいいわ」愛子は少し後ろに身を預け、目を伏せて詩織の冷たくなった表情を見ながら、軽く笑った。「貪ると失うと言うの。魚を釣る時と同じ、多数の魚を狙うと、一匹も釣れなくなるのよ」

「ハハハ！」

初は彼女に寄り添って笑った。「僕はまさにお前の手中の一匹の魚だよ。この先ずっとお前の手から逃れられないな！」

愛子は微笑んだが、心は冷めきっていた。

詩織は怒りで息が詰まりそうになり、ブドウを力いっぱい投げ捨てて立ち上がり、クラスメートの元へ寄っていった。

すぐに、酒が回り始め、全員が徐々に羽目を外し始め、脱いだ服が床に散らばっていた。

愛子は周りに合わせてしばらくカードゲームに参加したが、興味がなかった。そこで岡本文昭（おかもと　ふみあき）が詩織を呼んできて、初の隣に座らせた。

詩織はわざとカードに負け、飴を口で次の人に渡すという罰ゲームをすることになった。

初はカードを捨て、彼女に体を向けた。「どうぞ」

詩織は愛らしく笑い、飴をくわえて初に近づいた。

今にもキスしそうになった瞬間。

愛子が突然立ち上がった。

その時、個室のドアが開いた。

ドアの向こうに上品で凛とした姿の男性が立っていた。彼はタバコを一本指に挟み、場所を間違ってしまったようで、細長い眉をわずかに寄せて、愛子を一瞥した。

「おじさん？」初は立ち上がり、来訪者を驚いた目で見た。「あなたもここに来ているんですか？」

和真はタバコを箱に戻し、片手をスラックスのポケットに入れた。「パーティーだったのか？」

「はい、友達の祝いで来ているんです。おじさんはどの部屋にいるのですか？後で挨拶に行きます」

初はドアへ歩みを進めた。声はわずかに震え、興奮で顔を赤らめていた。和真がここにいるということは、他の大物連中も来ているに違いない——そう確信していた。これは矢崎市の社交界の頂点。彼が長年、あがきもがいても辿り着けなかった世界だ。普段は顔も見せてくれないような遠縁のおじさんにすら会えない男が、今、その牙城の真っただ中に立っている。だからこそ、何としてでも良い印象を残さねばならなかった。

「結構だ」

和真の声はあまりにも淡々としていて、感情が読み取れなかった。「友達とゆっくり楽しんでくれ。わざわざ来なくていい。今夜は俺が奢ってやる」

初は一瞬固まり、引き留めようとしたが、和真はすでに立ち去っていた。

雰囲気は凍りつき、しばらくしてようやく誰かが弱々しくソファに倒れ込んだ。「あれが和真様か…商業界の不敗神話、本当にオーラが強いな。さっき、声を出す勇気もなかったよ」

「俺もだ。初さん、あなたと和真様は親戚なの？おじさんって呼んでた？」

初は顔を曇らせた。「知ってればいいだろ。外では言うなよ」

全員が黙ってうなずいた。大家族は本当に控えめだなと思いながら、これまで木村家と小野家に関係があるなんて一度も聞いたことがなかった。

初はすでに彼らの中で最も優れた人物だった。大学を卒業する前に会社を起こし、どこへ行っても注目を集める存在だ。

しかし和真の前では、一瞬で押しつぶされたようだった。

「何をぼんやりしている。続けようぜ」

初は詩織の罰ゲームを忘れたようで、手を伸ばして愛子の腰に回した。「愛子、こっちにおいで。カードを見ていてくれ」

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