概要
史書にその名を刻んだ伝説の妖妃――須藤紀香は、ある日突然タイムスリップしていた。
目を開けると、彼女は須藤家の令嬢として生まれ変わっていた。美貌だけは人並み外れていたが、誰からも虐げられる、哀れな少女だった。
しかも、彼女が所属していたのは黒歴史だらけの十八線アイドルグループ。
まるで、フルレベルのプレイヤーがチュートリアル村に戻ってきたようなものだった。
世間が知る「妖妃」は、国を滅ぼす美女。
だが、本物の妖妃は――強靭な体と百の技を持ち、冷静沈着で一言も無駄にしない女だった。
ステージでは、一曲の舞で観客を圧倒し、瞬く間に話題の中心となった。
書道大会では、失われた華金字体を披露し、会場を騒然とさせた。
博物館では、妖妃の陵から発掘された数万点の文物が、国中を震撼させた。
そして生配信では、宮廷秘薬「赤玉膏」と自作の美容丸薬で、一夜にして視聴者を魅了した。
そんな彼女に目をつけたのが、超名門・三浦家の当主だった。
俳優が好きなおやじで、「紀香を孫の嫁にする」と豪語していたのだ。
世間は知っていた。三浦家の三男・三浦和也が、冷徹無比で女に興味がない男だということを。アンチたちは「どうせ結婚してもすぐ破綻する」と面白がっていた。
だが。大満貫女優賞の授賞式の夜、須藤紀香が突然体調を崩した。
ファンは「疲れが出たのだろう」と思っていた。
しかし、彼女を二つの時代にわたって追い続けた男だけが知っていた。
「二人目の子供を身ごもってるのに、まだこんなに反応が強いとはね」
人々は「妖妃は国を滅ぼす」と言った。
だが彼だけは知っていた。
彼女こそが天下の賢者を招き、国を治め、後の平和の礎を築いた女だということを。
前世、彼は彼女を骨の髄まで愛しながら、表には出られない忠臣だった。
彼女の死後、純金の棺を自ら作り、悔恨を抱えたまま彼女の後を追った。
今世――彼はもう、決して彼女を手放さなかった。
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