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章 3: 黒田一門に疎まれた娘

編集者: Inschain-JA

男は光に背を向けて立っていた。白いシャツを着て、180センチ以上の長身で、部屋の明かりが肩甲骨の辺りに柔らかな輝きを落としていた。

顔ははっきりと見えなかったが、唐沢沙羅には分かった。この男は黒田家の人ではない。

前世では、彼女は黒田一門でこのような人物を見たことがなかった。

相手からは上位者の気迫が漂っていた。

黒木文彦は国会議員で、高い地位にいるとはいえ、威厳という点では目の前の男性に及ばなかった。

一瞬のうちに——

沙羅はその場に固まり、どうすることもできなくなった。

彼女はこの部屋に人がいるとは思わなかった。相手はちょうどベランダ近くに立っていた。この時間、黒田家の別荘には人があまりいないはずだと思っていたのだ……

結局、もう日も暮れて、黒田大御所様の65歳の誕生日会の最中なのだから。

久保おばさんも、服を届けた後は庭の手伝いに行ったはずだ。

すでに10月初旬、夜の6時頃で、夜の帳が下り、沙羅の背後には夕暮れの灯りが広がり、その光の中で彼女の痩せた姿はひときわ儚く見えた。

半開きのベランダのガラス戸越しに、沙羅は部屋の様子をはっきりと見ることができた。

——これは文彦の書斎だった。

彼女の心の推測を裏付けるかのように、文彦の声が部屋から聞こえてきた。「医療改革法案については、国会内部でも意見が分かれていることは確かだ……」

同じ娘でありながら、彼女は文彦に好かれてはいなかった。

母が「さら」を彼女の名前に付けたのは、文彦への思いを託したからだった。

しかし、2年前に母の遺骨を持って二日二晩列車に揺られて首都に来たとき、文彦を初めて見た瞬間、彼女の心の期待と不安はすべて空しくなり、言葉にできない迷いと彷徨だけが残った。

母は臨終の際に住所を教えてくれたが、父が首都に家庭を持ち、そこには上品で賢明な妻と美しい娘がいることは告げなかった。

沙羅は当時の文彦の表情をよく覚えていた。彼は余計な娘である彼女を望んでいなかった。

あの時、夏帆は22歳、詩音は16歳だった。

そして彼女は17歳の誕生日を迎えたばかりだった。

沙羅は母とともにS国とミャンベト国境で十数年貧しく暮らし、人の言動を見て察することを学んでいた。文彦にしても黒田大御所様にしても、彼女に対する態度から、自分の出自に問題があることを悟った。

前世では、金子風雅と結婚して数年後、ある夜会に風雅と出席した際、母の知り合いだという高い身分を持つ年配者に出会った。

そのとき初めて知ったのだが、母の唐沢裕子は「愛人」ではなかった。二十数年前、文彦は国境地帯で潜入任務を遂行していた時、敵の内部に入り込むため、当時彼に好意を持っていたお嬢様だった裕子を利用し、二人の関係は発展して結婚にまで至ったのだ。

その後任務が終わり、裕子の父は亡くなり、裕子も行方不明になった。

程なくして、文彦は首都に呼び戻された。

誰も予想していなかったが、裕子はその時すでに身重だったのだ。

前世で沙羅が黒田家に戻ってから、特殊警察の誤射で命を落とすまでの9年間、文彦は彼女に真実を一度も語ることはなかった。

……

「もし医療改革法が本当に施行されれば、財務省の毎年の支出も増えることになるだろう」

書斎の中から、文彦の話し声がますますはっきりと聞こえてきた。

——彼はベランダに近づいていた。

沙羅が自分はきっと見つかると思った瞬間、目の前の男性が振り向き、さりげなく厚手のカーテンを引いた。

それから、彼は奥へ歩いていった。

沙羅はひやりとした気持ちになったが、頭の中には男性が振り向く前に自分の顔に向けた一瞥が残っていた。まるでいたずらな子猫を見るような優しさで、その端正で儒雅な顔立ちには、かすかに笑みが浮かんでいるようにも見えた。


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