人気俳優、なぜか私の家に住みたがる!?
作者: 碧玉簫© WebNovel
章 1: スキャンダル・クイーン_1
編集者: Pactera-novel
「……彼女、今夜ほんとに来るのか？」
レッドカーペット脇、ゲスト待機エリア。
番組の監督が首をかしげた。
「もう来ないんじゃない？」
隣にいたスタッフが時計を見ながら答える。
「順番は下から三番目だろ？今もう二番目が準備してるのに、彼女の影も形もない」
「だよな。あんな騒ぎ起こしたばっかだし、今頃チームは火消しに追われてるってさ。
スポンサーは契約を全部ストップ、映画もバラエティも放送延期。
来ないっていうより、呼ばれてないんじゃないのか？」
「もったいないよな。あいつが登場したらまた修羅場確定だったのに。ほら見ろ、まだ来てないのにすでにトレンド一位」
ちょうどそのとき、黒いマイバッハがゆっくりと横を通り過ぎた。
後部座席に座る男は、二人の会話などまるで聞こえていないかのように無表情で外を眺めている。
その隣では、同じ映画の共演者――森山彩（もりやま あや）がスマホを開いていた。
#夏目詩織レッドカーペット
#夏目詩織ゴールデンアオ映画祭
画面には、煌々と光る二つのタグ。どちらもすでに急上昇中。
そして、それらを上回って堂々と一位に鎮座しているのは――#薄井弦（うすい げん）
そう、今まさに隣に座っている、この男の名前だ。
薄井弦、二十九歳。
燕京薄井家の御曹司。
二十六歳のとき、突如として芸能界に現れた。理由はたった一つ――顔が完璧すぎたから。
元々は大学の講師。
映画学部での特別講義に招かれ、
白いシャツ姿で教壇に立ったその瞬間――
キャンパス中がざわめきに包まれた。
しかも、顔だけではない。
演技も確かだ。
デビュー作で新人賞、三作目では一気に金奥賞最優秀主演男優賞を受賞。
人気俳優につきものの恋愛スキャンダルも、彼だけはまったく無縁だった。
どんな恋愛映画でヒロインと熱演しても、撮影が終われば一線をきっちり引く。
デビュー三年、どれだけ週刊誌が張り込もうと、彼に関する噂は――一つもなかった。
......
会場に到着したのは、彼が最後。
夜の喧騒の中、
黒のスーツに身を包んだ薄井弦がゆっくりと車を降りる。
その姿に、歓声が爆発した。
「キャーーー！ 弦さんかっこよすぎ！」
「ああ、私死ぬ！薄井先生、こっち見てーー！」記者たちのシャッター音が絶え間なく鳴り、
ファンの悲鳴が夜空に響く。
彼は一歩遅れて降りた森山彩と並び、映画《月光》の宣伝として共にレッドカーペットを歩いた。
誰もが認める美男美女の組み合わせ――
のはずだったが、どこかしら「完璧」とは言い切れない。
森山彩は十分美しい。
けれど、芸能界で「顔面偏差値最強」と称される薄井弦の隣に立てば、どうしても霞んでしまうのだ。
実際、彼に釣り合う容姿を持つ女優が、一人だけいた――。
......
紅毯の進行が一人分狂い、司会者が急遽インタビューを追加した。
「薄井さん、今回の映画では『片想いして振られる男』の演技がとてもリアルでした。どうやってこの役を掴んだんですか？」
弦はほんの一瞬だけ目を細め、静かに考え込む。
そして、低く穏やかな声で言った。
「――それは、僕の実体験だからです。かつて、好きだった人に振られたことがあります」
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