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章 7: 超絶イケメン

編集者: Pactera-novel

「無理です。医療班の報告によれば、ペドロ殿下はまだ時おり正気を取り戻しているそうです。完全に意識を失うまでには、少なくともあと半年はかかるでしょう」フィルスは不安を押し隠しながらも、冷静に状況を分析した。

「フィルス、本当にこのあたりにいると確信しているのか?」通信機から、冷ややかな声が響いた。

「はい、セイント殿下。彼がこの周辺二百キロ以内にいるのは間違いありません」フィルスは表情を引き締めた。「ですが、監視カメラにはなぜか一切映らないのです」

「私が直接探す」セイントは短く告げた。「お前たちは引き続き、監視映像をくまなく確認しろ」

「やっと焼けた!」静は嬉しそうに声を弾ませ、焼き上がった魚を数枚の大きな木の葉の上に並べて冷ました。大きなライオンのために用意したその魚には、あえて調味料を使わなかった。

結果、そのライオンは焼き魚の匂いを数匹分嗅いだあと、あっさりと背を向け、静が自分用に用意した調味料入りの魚に噛みついた。そして、わずか数口で平らげてしまった。

「だめだよ、大きな猫ちゃん。調味料入りの焼き魚は食べちゃだめ。その味つけはあなたの体に良くないの」静はそう言いながら、ライオンのたてがみをそっと何度か撫でた。そして、もしこのまま怪我をした動物に出くわしたら、園長に報告すべきかどうかを考えた。

本来なら重大な状況のはずだが、静は園長の連絡先を持っていなかった。「うーん……とりあえずアンソンさんに連絡しよう」

彼を通して園長に連絡を取ればいい。

思い立ったが吉日。静はすぐにアンソンの通信機へ連絡を入れた。

監視室にいたアンソンの手首の通信機が、数回小さく振動した。画面を見ると、発信者は静。彼女が今日初めて森の巡回に出たことを思い出し、何かあったのかもしれないと直感したアンソンは、すぐに応答ボタンを押した。

そして一分後、彼はこの判断を下した自分を心の底から褒めることになる。

静は明るい笑顔でアンソンに挨拶し、すぐに本題に入った。「アンソン、森を巡回してたら、怪我をしたライオンに出会ったの。もう包帯を巻いておいたから報告しておくね。園長にも伝えたほうがいいなら、連絡先を教えてもらえる?」そう言ってカメラをライオンの方へ向けた瞬間、モフモフした巨大な顔が、アンソンの画面いっぱいにどんと映し出された。

驚きで一瞬息をのんだあと、アンソンはすぐにそれがペドロ親王だと気づいた。そして次の瞬間、喜びが込み上げ、思わず涙がこぼれそうになった。

「石川さん、まだ切らないで。園長がすぐ近くにいるから、このまま通信機を渡すね。直接園長に報告して」アンソンはそう言って、慌てて通信機をフィルスに手渡した。

フィルスは通話画面に映る大きなライオンを凝視し、慎重に確認した。――間違いない。あの茶黒色の毛筋が、ペドロ親王のたてがみにだけある特徴だった。

ついに見つけた――!フィルスは胸の高鳴りを抑えきれず、慌てて声を上げた。「石川さん、状況を詳しく教えてください。ライオンの怪我は深刻ですか?」

「一時間くらい前に出会いました」静はカメラをもう一度ライオンの方へ向けたが、今度は少し距離を取って、全体が映るように調整した。「足を怪我していたので、もう包帯を巻いてあります。園長、どなたか検査に来てもらったほうがいいですか?」

「石川さん、個人光脳で救難信号を送ってください。それであなたの現在位置がわかります。ライオンと一緒に、絶対に動かないで」フィルスは切実な声でそう指示した。「すぐに救助班を向かわせます」

「園長、あの……その大きなライオンが、私用に作った調味料入りの焼き魚を食べちゃったんですけど、大丈夫でしょうか?」通信が切れる前に、静は気になっていたことを慌てて問いかけた。

「大丈夫です。うちの動物園の野生動物は、普通の動物と違って人間の食べ物にも対応できるんです」フィルスはそう言い残し、急いで通信を切った。――セイント殿下に報告しなければならない。

通信を切ったあと、フィルスは大きく息を吐き出した。――助かった。

もしペドロ殿下が本当に見つからなかったら――自分は間違いなく、厳しく責任を問われていただろう。

幸運にも、新入りの職員がペドロ殿下を見つけてくれた。これで、あのセイント殿下の冷たい視線に怯え続ける日々ともおさらばだ。

「早く報告しろ」セイントの声は、氷の欠片のように冷たく通信機から響いた。

「セイント殿下!ペドロ殿下を発見しました。現在ご無事です!」フィルスは興奮を抑えきれずに報告した。「新しく採用した飼育員の石川さんが、森の中で殿下に遭遇しました。すぐに位置情報をお送りします!」

通信を切ると、セイントは迷いなく動き出した。まだ森の奥深くで捜索を続けていた彼は、受け取った位置情報を確認すると即座に方向を変え、静のいる地点へとまっすぐ向かった。

一方そのころ、静はライオンが自分と同じ食べ物を食べられると知って安心し、残っていた数匹の焼き魚にもすべて調味料をかけた。

案の定、ライオンはまったく拒むことなく、嬉しそうに焼き魚を食べ始めた。しかも、一匹をわずか二口で平らげてしまうという豪快さまで見せてくれた。

静は自分の焼き魚を一匹食べ終えると、すっかりお腹が満たされた。そのまま大きなライオンの背に体を預け、目を細めて――まるで天然のあたたかい毛布のような心地よさを味わった。

「大きな猫ちゃん、いつまでも “猫ちゃん” じゃ呼びづらいよね。森にはきっと、あなたの仲間もたくさんいるんでしょう?」静はそう言いながら、ライオンの背に半分身を預けるように寝転び、片手でもふもふとたてがみを撫でた。「ニックネームをつけてあげるね。変な名前のほうが育てやすいって言うし……今日から “節子” って呼ぶね。いい名前でしょ?」

静はライオンの頭をぽんと軽く叩きながら言った。「これで決まり。異議は受け付けませんからね」

なんて名前をつけるんだ……?ライオンは不機嫌そうに静の手を頭から払いのけ、尻尾をイライラと左右に打ち振った。

この人間のそばにいると、頭の痛みが少し和らぐ。それがなければ、とっくにこの場から立ち去っていただろう。――そういえば、彼女の作った食べ物を口にすると、体まで楽になる気がする。

セイントが現場に到着したとき、そこには人間と獣が仲良く並んで横たわり、穏やかに日向ぼっこをしている光景が広がっていた。大きなライオンはゆっくりと頭を上げ、セイントを一瞥する。その瞳には――まるで人間のような、戸惑いの色が浮かんでいた。

セイントの胸に一瞬、複雑な感情が走った。――ペドロおじさんは……今、正気なのか?

静は目を見開き、思わず息をのんだ。――な、なんでこの動物園には、こんなにハンサムな人がいるの?目の前の男性は、きちんとした軍服に身を包み、背筋をまっすぐに伸ばして立っていた。端正な顔立ちに、短く整えられた白髪。そして青い瞳には淡い冷たさが宿り、まるで高嶺の花のように近寄りがたい気品を放っていた。

静は思わず喉を鳴らした。――やばい、どストライクだ。

「あ、あのっ……あなたは、園長が節子を調べるために派遣した方ですか?」あまりにもハンサムすぎて、言葉が途中でつかえてしまった。

セイントは静かにうなずき、慎重な足取りでライオンへと数歩近づいた。ライオンが逃げる素振りを見せなかったのを確認し、彼は確信した。――ペドロおじさんは、今たしかに正気を取り戻している。

「彼を飛行機に運んで、詳しく検査する必要がある。あなたはここで少し待っていてくれ」セイントはそう言いながらライオンのそばに歩み寄り、その背を軽く叩いた。するとライオンはすぐに立ち上がり、素直にセイントのあとを追って飛行機の方へと歩いていった。

「ここの野生動物って……こんなに人間の言うことがわかるの?」静は小さくつぶやいたが、特に深くは気に留めなかった。

近くの飛行機の中で、セイントはライオンの前にしゃがみ込み、真剣なまなざしでその瞳を見つめた。「……ペドロおじさん?」

ライオンはわずかにうなずき、次の瞬間、前足でセイントの手首をそっと引っかいた。

それを見たセイントはすぐに通信機を取り出し、空中に仮想キーボードを投影した。指先で操作しながら、ライオンが使いやすいようにサイズと間隔を丁寧に調整していく。

ライオンはゆっくりと大きな前足を伸ばし、不器用に、それでも真剣にタイピングを始めた。

通信機に表示された文字を読み終えると、セイントの表情は一気に引き締まり、重々しいものへと変わった。

「――あの少女のそばにいると、あなたの精神波が安定して、正気を長く保てる……そういうことですね?」

ライオンは再びうなずいた。そのモフモフした大きな顔には、驚くほど真剣な表情が浮かんでいた。


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