章 3: 図々しいのは一体誰か
編集者: Pactera-novel
京南私立病院。
林田愛莉が手術室に横たわり、長い針が体に刺さった。突然の冷たさと痛みで、彼女は唇を噛み、反射的に布団をしっかりと掴み、体を丸めて冷たい息を吸い込んだ。
「やったことあるでしょ、演じていても誰も気にしないから」彼女が継母に強制的にこんなことをさせられている少女だと思って少し同情していたが、検査してみると、処女膜はとっくに破れていた。
どれだけ乱れている生活を送っているかもしれないのに。
そう思った医者は強引に愛莉の足を開かせ、針を押し込んだ。
愛莉は全身が硬直し、体よりも心がもっと痛んだ。
医者の言葉で、彼女は思わず車内で起きた悪夢を思い出した。震えながら目を閉じると、絶望的な涙が目尻から流れ落ちた。
医者の言う通りだ。彼女はもう清純どころか、男性体液を注入されて、こんな破廉恥な事をもやったのに、まだ何を隠す資格があるというのか。
痛みが全身を襲い、愛莉は体が硬直して冷たくなった。どれくらい経ったのか分からないが、ようやく医者が彼女にベッドから起き上がるよう告げた。
愛莉は下腹部を押さえながら外に出ると、廊下で林田蘭子（はやした らんこ）と吉田亮に出くわした。
「愛莉、なぜここにいるんだ？」亮の目は驚きで満ちていた。
「ここにいるのは、もちろん妊娠したからでしょ」蘭子は片手で亮の腕をつかみ、もう一方の手で平らなお腹をなでながら、得意げに彼女を見た。
口調は嫌みたっぷりに嘲笑うように言った。「林田愛莉、あなたは清純そうに見えたけど、まさか処女でもない尻軽女だったなんてね。亮兄とあなたが結婚しなくて良かったわ。さもなければどうなるでしょうね」
亮は複雑な表情で愛莉を見つめた。手を繋ぐだけで赤面して可愛らしかったのに、まさかいつの間に他人の子を宿していたとは、彼の心には怒りで満ちていた。
口から出る言葉も厳しくなった。「愛莉、相手は誰だ？」
愛莉は冷ややかに笑った。「相手？吉田亮、私たちにまだ関係があるの？あなたたちに私を責める資格なんてないわ。私がどうあれ、少なくともあなたたちよりはましよ」
彼女は蘭子のお腹を指さした。「妊娠二ヶ月以上でしょう？図々しいのは、一体どこのだれか自分で分かってるよね？それに、林田蘭子、私が捨てたものを大事にしておきなさいよ。もし結婚して最後まで添い遂げないなら、軽蔑するわ！」
そう言うと彼女は下腹部の痛みをこらえ、後ろから罵る蘭子を無視して、振り返ることなく病院を後にした。
愛莉はあの日のことを思い出すと、まるで悪夢のようだった。もし蘭子と亮のことにショックを受けて飛び出さなければ、あのレイプ犯と出会うこともなかったし、母も心臓発作を起こすこともなく、今こうして代理母になる羽目にもならなかっただろう。
それはまるでパンドラの箱のように、彼女の全ての悪夢を解き放った。
林田蘭子、吉田亮、この二人を彼女は決して許さない。絶対に！
数週間後、愛莉が再検査を受けると、妊娠が成功したと告げられた。
加藤芳恵は彼女をある豪邸に連れて行き、あの方の意思だと言った。万が一の事態を避けるため、出産までここで過ごすようにとのことだった。ここには携帯もインターネットもなく、愛莉にとっては豪華な牢獄に等しかった。
愛莉は嫌がったが、手術後の母の体は弱く、高価な薬が必要だった。お金のためには屈するしかなかった。
幸い芳恵は彼女を安心させるために、毎月母の写真を撮って見せてくれた。
あっという間に、八ヶ月が経った。愛莉は窓際に座り、横顔全体が母性の輝きを放っていた。
「我が子は本当にいい子だね。もうすぐおばあちゃんに会いに行けるよ。おばあちゃんならきっとあなたが大好きになるわ」、彼女はお腹を撫で、愛情で満ちていた。
腹が大きくなるにつき、愛莉は胎動を感じ始めた。そして最初の恨みも徐々に愛に変わっていった。空っぽの部屋の中で、彼女のそばにいたのは自分の子だけだった。このつながりは何物にも代えがたいものだった。
「林田愛莉、これ母に持ってくるように言われたものよ」。蘭子が入ってきて、栄養剤などのものを置くと、愛莉のお腹を見て目に悪意が浮かんだ。自分の子供は奇形で四ヶ月で流産したのに、どうして愛莉の子供は元気に育っていた。
不公平だ。彼女が丹精込めて育てた赤ちゃんは流れたのに、愛莉が老人のために代理出産した子供は成長している。人工授精の子供は育てにくいはずじゃないのか？
愛莉はテーブルを支えながら、大きなお腹を抱えて立ち上がった。芳恵は確かにこの代理出産の子供を大切にしていて、衣食住すべてで最高のものを与えていた。おそらくあの方と関係があるのだろう。
そう考えると、愛莉の口調も柔らかくなった。「ありがとう。でも最近どうして母の写真を持ってこないの？母は元気？」
清野素子のことを聞かれて、蘭子の顔に一瞬の違和感が走った。唇を噛み、不機嫌そうに答えた。「あなたの母のそばに医者がいるから心配ないでしょ。むしろ自分のことをちゃんと気にしなさいよ。何か問題があったら今までの苦労が水の泡よ。妊娠後期になればなるほど注意が必要だってわかってるでしょ？」
「福子さん、ミルクを持ってきて。このお腹、へこんでるじゃない。誰かに見られたら虐待してると思ってしまうわよ」
このお腹がまだ小さい？彼女はむしろ大きすぎて出産が難しくならないか心配していた。
「お嬢様、ミルクをどうぞ」、福子は芳恵の部下で、最初は愛莉は用心して母子に危害を加えるのではないかと心配していたが、この半年以上、福子は大人しくしていたので、愛莉も気にしなくなっていた。
ただこのミルクは……毎回飲むと眠くなる。今回は飲んだふりをしてこっそりゴミ箱に吐き出した。
間もなく彼女はいつもどおり昼寝をするよう言われた。愛莉はベッドに横たわったが、意外にも眠らなかった。
廊下の外で、蘭子が芳恵と電話で話していた。「タッタッ」とヒールの音とともに、尖った鋭い声が彼女の焦りを隠すことなく響いていた。
「お母さん、どうするの？愛莉があの女の写真を見たがってるわ。もう死んでるのに、閻魔の庁まで行って探してくるの？」
愛莉の心は「ドキッ」と跳ね、信じられないという様子で目を大きく見開いた。母が死んだ？
彼女の指は布団を握りしめ、枕を噛み、「ポタッ」と涙が落ちた。どうして？母がどうして死んでしまったの？病院でしっかりしているはずじゃないの？どうして？
「今どうするの？彼女は出産予定日に達してないから、母体を犠牲にして子供だけ残すこともできない。もし彼女が何か気づいたら、どうすればいいの？」
母体を犠牲に……彼女たちは自分を殺そうとしているのか？
愛莉は歯を食いしばって天井を見つめ、全身が冷たくなった。
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