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5.26% 夫の「死ね」から始まる家の復讐 / Chapter 1: 第01話:さよならの始まり
夫の「死ね」から始まる家の復讐 夫の「死ね」から始まる家の復讐 original

夫の「死ね」から始まる家の復讐

作者: 物語る猫

© WebNovel

章 1: 第01話:さよならの始まり

第01話:さよならの始まり

[氷月(ひづき)雫(しずく)の視点]

携帯電話が鳴った時、私はリビングのソファで、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

「氷月雫さんですね。検査結果についてお話があります」

医師の声は、いつものように淡々としていた。でも、その奥に潜む重さを、私は敏感に感じ取っていた。

「ステージ4のすい臓がんです。治療を中止した場合、余命は一ヶ月未満と考えられます」

電話の向こうから聞こえる言葉が、まるで他人事のように響いた。

一ヶ月。

「治療はどうされますか?」

「......治療は受けません」

なぜか、迷いはなかった。

「ご家族の方にもお話を」

「夫も納得してくれています」

嘘だった。刹那(せつな)には何も話していない。話すつもりもなかった。

電話を切ると、静寂が戻ってきた。検査結果の紙を手に取り、そっと引き出しの奥にしまう。

リビングのサイドテーブルに置かれた写真立てが目に入った。結婚式の時の写真。純白のドレスを着た私と、タキシードの刹那が笑っている。

あの頃の刹那は、私だけを見つめていた。

幼なじみから恋人になって、二人で必死に働いて、やっと手に入れたこの家。刹那の会社が軌道に乗るまで、私も夜遅くまで働いた。お互いを支え合って、愛し合って。

「雫が俺の全てだ」

そう言ってくれた刹那は、もういない。

結婚七年目。秘書の綾辻(あやつじ)玲奈(れいな)との不倫が始まってから、刹那の目に私はもう映らなくなった。

数日前の結婚記念日。私が用意した夕食も、プレゼントも、刹那は見向きもしなかった。

「雫、俺には子どもが必要なんだ」

その言葉に、私は思わず手にしていた花瓶を床に叩きつけてしまった。白い陶器の破片が、リビングに散らばった。

玄関のドアが開く音がした。

一週間ぶりの帰宅。刹那のワイシャツには、薄いピンクの口紅がついていた。

「拗ねるのは終わったか?」

冷たい声だった。昔の優しさなんて、もうどこにもない。

「おかえりなさい」

私はそう言うのが精一杯だった。

「まだ片付けてないのか」

刹那は床に残る花瓶の破片を見下ろした。私は慌てて破片を拾い集めようとして、鋭い欠けらで手を切ってしまった。

「痛っ」

血が滲む。

「新手の演技?自傷?」

刹那の声に嘲笑が混じっていた。

「そんなんじゃない」

「雫、いい加減にしろ。あいつとはただの遊びだ」

あいつ。玲奈のことを、そう呼んだ。

「妊娠して子どもが生まれたら、向こうは海外にでも送るつもりだ」

まるで物でも処分するような口調だった。でも、玲奈に向ける刹那の表情は、私に向けるものとは全く違っていた。

刹那の携帯が鳴った。

「玲奈?」

声のトーンが一変した。優しくて、温かくて。

「うん、今から行く」

私に向けたことのない声だった。

刹那はコートを羽織り、玄関に向かった。

「待って」

背中に向かって、私は言った。

「離婚しましょう」

刹那は振り返らなかった。

「もし、ほんとうにもうすぐ死ぬとしたら?」

小さく呟いた私の声は、ドアが閉まる音にかき消された。

携帯を手に取り、刹那の番号を押す。

『おかけになった電話番号は、お客様のご都合により......』

着信拒否。

私はかすかに笑って、壁のカレンダーを見上げた。

「.....今日が、刹那と『さよなら』する、最初の日なんだね」


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