第7話:白い布の下で
[氷月刹那の視点]
「ふざけるな」
俺は携帯を握りしめ、アクセルを踏み込んだ。
「雫はどこだ?隠れてないで出てこい!」
電話の向こうで、かえでが息を呑む音が聞こえた。
「このクズ男!」
かえでの声が震えていた。
「あんた最低だね!!雫は、本当に死んだのよ!」
「嘘をつくな」
俺は車線を変更しながら怒鳴った。
「雫と組んで俺を騙そうったって、そうはいかない」
「今すぐ、火葬場まで来い」
かえでの声が冷たくなった。
「署名が必要なの。あんたしかできないのよ!」
電話が切れた。
手が震えている。
いや、違う。ハンドルが震えているんだ。
俺は路肩に車を停め、深呼吸をした。
「落ち着け。これは雫の芝居だ」
携帯を取り出し、秘書の番号を押そうとした時、着信音が鳴った。
綾辻からだった。
「刹那?レストランの予約、どうする?もう時間よ」
「一人で食え」
俺は一方的に電話を切った。
すぐに秘書の番号を押す。
「今すぐ雫を探せ。何があったのか、すぐ調べろ!」
「承知いたしました」
車を再び走らせる。
火葬場までの道のりが、やけに長く感じられた。
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火葬場のロビーで、橘かえでが一人で座っていた。
目を真っ赤に腫らし、黒いスーツを着ている。
彼女の隣には、白い花束が置かれていた。
かえでは刹那の姿を見ると、立ち上がった。
「遅いじゃない」
「手続きは済んでるの。あとは家族の署名だけ」
彼女の手には、書類の束が握られていた。
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[氷月刹那の視点]
「ふざけるな。雫はどこだ?」
俺はかえでに詰め寄った。
「まだそんなことを」
かえでが呆れたような顔をする。
「いい加減にしなさいよ」
その時、携帯が鳴った。
秘書からだった。
「社長、調べました」
「どうだった?」
「名簿を確認しましたが、間違いなく奥さまのお名前でした」
電話の向こうから、書類をめくる音が聞こえる。
「氷月雫様、本日午前中にご安置されております」
携帯を持つ手が震えた。
「そんな......」
俺は電話を切り、かえでを見つめた。
「雫は.....どこにいる.....?」
声が掠れていた。
かえでは何も答えず、ロビーの奥を指差した。
そこには、一台のストレッチャーがあった。