章 6: 彼らは関わるべきでない人に関わっていた
編集者: Pactera-novel
沙織の華奢な体つきと質素な服装は、人込みの中ではあまり目立たなかった。
長い沈黙の後、律は眉をしかめた。
「沙織、ここはお前が来るべき場所ではない」
律が沙織を全く眼中に入れていない様子を見て。
井上はさらに調子に乗った。彼は手を伸ばして警備員を呼び、沙織を指さして言った。
「この女は前科者だ。皆さんの物を盗むために紛れ込んできたんだ。さっさと追い出せ。さもないと後で苦情を入れるぞ」
警備員は沙織の質素な服装を見て、吉田の言葉を信じ、彼女に言った。
「お客様、招待状をご提示いただけますか……」
招待状、確かに沙織は持っていた。出かける前に確認もしていた。
しかし今バッグを探してみると、レストランに置き忘れてきたことに気づいた。
「すみません、持ってません」
吉田はそれを聞いて大声で嘲笑した。「お前みたいな役立たずに招待状があるわけないだろ？もういい加減にしろよ、お前がどれだけの器か皆知ってるんだからな！」
彼らは皆、沙織が恥ずかしく追い出される様子を見るのを待っていた。
冷たい声が響いた。
「誰が彼女を止めるというのか？」
皆が顔を上げて見ると、白いシャツを着た背の高い人影が近づいてきていた。
彼の冷たい雰囲気は高嶺の花のようで、長い指が招待状を挟んで警備員に渡した……
隼人だ！
その場にいた者たちは医学界の人間で、隼人が「鬼避け」という異名を持つことを知っていた。
どれほど難しい病気であっても、すでに片足を冥土に突っ込んだ人でさえも、彼は閻魔の手から取り戻すことができるため、「鬼避け」と呼ばれていたのだ。
警備員は当然ながら邪魔する勇気はなく、沙織が彼と一緒に入っていくのをただ見ていた。
エレベーターがゆっくりと上昇していく。
二人ともエレベーターのドアの方を向いていた。長い間、沈黙が続いた。
結局、隼人が先に口を開いた。
「こっちで仕事を探してるのか？」
沙織は黙っていた。
大学を卒業してから今まで、二人の間には十数年の歳月が流れていた。
お互い見知らぬ感じはないが、実際のところは他人同然だった。
「もし仕事が必要なら、ある大物を紹介してやろう。お前の才能なら間違いなく……」
「あなたの施しはいりません。ありがとう」
沙織はやはり冷淡だった。エレベーターのドアが開くと、彼女は急いで立ち去った。
三十分後、ある密室で。
二人だけがいた……
加藤宗介（かとう そうすけ）はやや華奢な若い女性を前にして、心の中で感嘆した。彼は最初は信じられなかったが、彼女がパソコンを取り出し、あるコードを画面に打ち込んだとき、彼女の知性の輝きに衝撃を受けた。
「わかったよ、君が本当に……アルファだったんだな！」
沙織はうなずいた。「よろしくお願いします。ひとつだけ条件があります。私の身元を外部に漏らさないでください」
「もちろんだ！ただ、今回の協力はチーム全体で行うことになる。その際は他のメンバーとも協力してもらう必要がある」
「直接会わなくても、ネット上でのやり取りだけで十分です」
「では、中核メンバーの名前を知る必要はないのかな？」
「必要ありません。グループに入れてもらえればいいです」
「OK！」
三十分にわたる秘密交渉の後、沙織は技術部長の座を手に入れた。
その夜、宗介はアルファとの契約成功を祝う豪華な宴を開いた……
祝いに来た人は多かった。
会場には裕福で地位のある人々ばかりが集まっていた。彼らは宗介に祝意を表すために来たと言いながらも、実際は「アルファ」の素顔を一目見たいという興味からだった。
この伝説の謎めいた大物が一体どんな姿をしているのか知りたかったのだ。
宗介は京都四天王の中で最も畏怖される存在だった。それは彼の家柄の良さだけでなく、その鉄の意志と人の心を見抜く目があるからだった。
宗介は自尊心が高く、極端な自信家で、誰も眼中になかった。彼が気に入らなければ、どんな権力者にも情けをかけなかった。
だがA市で唯一彼が認めている人物がいた。それが律だった。
律が来るのを見て、彼は満面の笑みで心から歓迎した。
「やあ、秦野社長、いらっしゃい、どうぞお座りください！」
「宗介さん、優秀な人材を得られたこと、おめでとうございます」
律と宗介は握手を交わした。
宗介は真っ白な唐装を身にまとい、数珠を手にしていた。目は半開きで、清らかな心の持ち主という雰囲気を漂わせていた。
「ハハハ、運が良かっただけさ。彼女に認めてもらえるなんてね」
「宗介さん……彼女を雇うのに二十億払ったと聞きましたが、価格を言ってもらえませんか？実は私の方が彼女との協力に興味があるんです」
「おや？秦野社長もそんな考えをお持ちで？」
律の視線は隣にいる泉に向けられ、その眼差しは優しくなった。
「彼女の足は今のところ補助関節があってこそ少し歩けるだけなんです。もしナノロボットのプロジェクトを手に入れることができれば、彼女にもっと希望が……宗介さん、お値段をつけてください。私はアルファとの協力を心から望んでいます」
宗介は彼の隣にいる女性をちらりと見た。綺麗な顔立ちをしている……
「もし私が二十兆円を要求したら、応じられるかい？」
律はためらうことなくうなずいた。「はい」
宗介は手を叩いて喜んだ。
「秦野さんは本当に情に厚い方だな。美女のために二十兆円を投げ打つとは。この美しい方はあなたの宝物なんだね」
泉はそれを聞いて、彼女の愛らしい顔が少し赤くなった。
思わず両手で律の腕を抱きしめた。
律はとても理性的で、利益を重視するビジネスマンだったが、彼女にだけは特別だった。彼女のためなら、しばしば理性を失った……
「それで、宗介さんは譲ってもらえるでしょうか？」
「うーん、私は構わないよ。二十兆円で転売できるなら、誰だって喜ぶさ。でも、最終的には彼女の意向次第だな……」
「もし宗介さんに自信がないなら、彼女の連絡先を教えてください。私から交渉します」
「それは……」
そのとき、宗介は宴会場を見回したが、沙織の姿は見当たらなかった。
そこで彼は沙織にショートメールを送った。
「先生、誰かが二十兆円で協力したがっているんだ。彼と話し合う気はある？」
「宗介さん、そんなに簡単に私を売るつもりですか？」
「いやいや、そんなことないよ。俺はそんなにレベルの低い男じゃない。他の人なら絶対に譲らないけど、相手は重要人物でね、彼に顔を立てたいんだ。もちろん、君の意向次第だけどね」
「わかりました。相手に本気があるなら、まずは会ってから話しましょう」
「決まりだ。時間を決めたら連絡するよ」
利益になることなら、沙織はもちろんそのチャンスを逃すつもりはなかった。
午後三時、彼女は宗介から前払いの二億を受け取った。お金が口座に振り込まれるとすぐに、彼女はネットで一軒家の別荘を選び、頭金を支払った。
刑務所であれだけの苦労をしたのだから、これからの人生は自分を大切にしようと思った。
四時過ぎに携帯が鳴った。見知らぬ番号に一瞬戸惑い、しばらく迷った末に電話に出た……
「どちら様ですか？」
「なんだ、俺の電話番号もわからないのか？」
「あなたは？」
「沙織、いい気になってるな。今や偉くなったつもりか？」
隼人は少し腹を立てていた。電話番号がわからないのはまだしも、彼の声まで認識できないとは。
この女、一体どれだけ彼を眼中に入れていないのか？
「あぁ、山口先生ですか」
「そうか、先輩とも呼ばなくなったのか。山口先生だって？そんなに他人行儀なのか？」
山口の冷たい声にはわずかな怨みが混じっていたが、沙織はもはや昔のように明るくなかった。
彼女は平静を保って言った。「何か用ですか？」
「こちらに子供がいるんだ。彰宏という名前で、注射を打つのに母親が来ないと協力しないと言ってる。来てくれないか？」
彼女の声は明らかに焦り始めていた。「どこの学校？」
「市立第六小学校だ……」
「わかりました、すぐ行きます！」
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